The real Bakusho Mondai (Laughing Carboy)
In the fourth installment of our column series by Kozue Suzuki, an editor with a deep love of entertainment, we discuss the Bakusho Mondai comedy duo. In the fourth installment of this series, Kozue Suzuki, an editor who loves entertainment, writes about the comedy duo “Bakusho Mondai” on the radio.
爆笑問題に対する世間的なイメージと実際の乖離
「おすすめのラジオ番組は何?」と聞かれたら、私はまず『爆笑問題カーボーイ』(TBSラジオ)と答える。名前のとおり、爆笑問題の太田光と田中裕二がパーソナリティを務める、1997年に放送を開始したTBSラジオの長寿番組だ。
私がこの番組を聴き始めたのは、おそらく2020年頃のこと。学生時代にもラジオを聴き込んでいたものの、社会人になると徐々に聴くことが減り、エンタメ関連の仕事が増えてきた2020年頃にまたお笑い関連のラジオを聴き始めた。
そんな中、特に気に入ったのが『カーボーイ』だった。それ以前、爆笑問題のことはテレビでたまに見かけるくらいで、歯に衣着せぬ発言と大胆な振る舞いで注目される太田と、そんな太田を諭す常識的な田中、という印象を持っていた。
しかし番組を聴いてみて驚いた。私がテレビなどで抱いていた爆笑問題に対する印象は、180度といってもいいほど変わってしまった。
太田は勤勉で思慮深く、考えを述べるときは丁寧に言葉を尽くし、自身の発言や行動が炎上すればくよくよと落ち込む繊細さをみせる。時事に対して鋭く切り込む発言や毒舌が太田から飛び出すこともあるが、田中はそれを制するどころか、乗っかるし、煽るし、口を滑らせる。それを太田が制したり慌てたりする場面すらある。また田中は、自身についてイジられたとき以外はあまり反論しないし、何かに対して意見することも少ない。
田中は思慮深い常識人ではなかったのか? 太田は何も考えずに好き勝手発言しているわけではなかったのか? そんな戸惑いと共に私は『カーボーイ』に、爆笑問題にのめり込んでいった。
爆笑問題といえば時事ネタを盛り込んだ漫才を披露し、太田はテレビなどでも政治に関する発言でよく注目を集めているが、太田の興味は政治に限らずかなり幅広いことが番組を聴くとよくわかる。
たとえばAdoやYOASOBIの作品や活動に言及しながら、インターネットカルチャーやボカロ文化などの話をすることがある。TikTokのダンスやネットミームについて触れることもある。『響け!ユーフォニアム』などアニメの話をすることもあるし、ゲームの話をすることもある。最新のテレビドラマや小説、さらには他局のラジオ、もちろんお笑いの話もする。そのため「面白い話を聴けるお笑いラジオ」としてだけでなく「トレンドを知る情報番組」としての側面も持つ。
しかもそれらをただ話題にするだけでなく、太田自身が直接触れ、その魅力を考察、分析し、熱量をもって語る。そのためつい、その魅力を確かめてみたいと思ってドラマやアニメを実際に観たり、紹介された小説を買って読んでみたりしてしまう。あまりに語り尽くしてしまうレビューは、それ自体だけで満足してしまうこともあるが、太田のレビューには実際に触れてみたくなる力がある。
一方で田中は、どれだけ太田が熱量をもって語り尽くしたところであまり興味を持たない。そのため過去には「田中はアニメを知らない」というコーナーが存在した。
タイトルのとおり、太田がどれだけアニメの話をしたところで田中はアニメをほとんど観ないので、特定のアニメ作品の嘘のあらすじ(リスナーが投稿)と本当のあらすじを用意し、どれが本当のあらすじなのかを田中が当てるというクイズコーナーだった。なお、このコーナーは「田中がアニメを観ないから」という理由で終了した。
それほどまでに、田中は自発的に面白いと感じる物事以外への興味がほとんどない。野球、麻雀、猫といった数少ない関心事については熱く語る場面もあるけれど、基本的にそれ以外のことにはほとんど興味を示さない。
そんな、世間的なイメージとはだいぶ異なる爆笑問題のあり方がよく見えてくる番組こそが『爆笑問題カーボーイ』である。
田中裕二という存在のキャッチーさとネタ職人の魅力
ここまで書くと私があまりにも太田に肩入れしているような印象を受けるかもしれないが、『爆笑問題カーボーイ』には田中の魅力もこれでもかというほど詰まっている。
前半のフリートークは太田がメインで喋ることが多いものの、コーナーになるとそのほとんどの軸となるのは田中である。その前半と後半のはっきりとした毛色の違いも、この番組の魅力かもしれない。
田中は物事にあまり興味を示さないと書いたけれど、そのぶんひたすらに我が道を行くため、常に純粋で自由。愛嬌もある。そのため前述した「田中はアニメを知らない」のように、田中を軸としたコーナーが常に存在している。
昨年11月に始まったコーナー「出ました!興醒めツッコミ」は、田中がよくやってしまう的外れなツッコミを参考に、リスナーが架空のボケとツッコミをセットで考えて投稿するコーナー。そんなコーナーが生まれてしまうほど、田中の的外れな発言はお決まりのものとなっている。
「怒りんぼ田中裕二」は、「◯◯の田中裕二です」とリスナーが名乗るところから始まる「怒り」に関するエピソードが投稿されるコーナー。エピソードの詳細を太田が読み、田中がその怒りに共感できるかどうか(怒りを感じるかどうか)を最終的にジャッジする。
田中は物事や他人にあまり興味を示さないぶん、許容範囲が広い(動じない)面もあるので、リスナーの怒りに共感するときもあれば、しばしば「別に俺は怒らない」となることもある。リスナーの猛烈な怒りと、それに対する田中の反応のコントラストが非常に面白いコーナーである。
田中を軸とした一番古いコーナーでいえば「CD田中」。このコーナーは番組開始当初から続いている。何かしらの楽曲の中に番組で過去に田中がしゃべった言葉を入れ込んで、リスナーが作品を生み出すコーナーである。
「出ました!興醒めツッコミ」のコーナーが生まれたことでもわかるとおり、田中の発言は突拍子がなく印象的であることが多い。そのため端的な発言が素材として非常に使いやすく、「CD田中」ではそんな田中の発言とあらゆる楽曲が奇跡の化学反応を起こす。
私は特に「CD田中」のコーナーが好きだ。ネタ職人たちによる田中の発言と楽曲のチョイスとつなぎ方のセンスが光る。そんな作品づくりにおいて都合の良い発言を本当に田中がしていたのかと疑うほど、あまりにも自然につないで、とんでもない笑いを生むものだから、いつも本当に涙が出るほど笑ってしまう。田中が気に入った作品は「テープ入り」となるのだが、本当に存在するのならそのテープを売ってほしい。擦り切れるほど聴きたい。
そんな田中の「面白がり方」を熟知しているのは、太田や番組スタッフだけではない。この番組で重要となるのは、ネタ職人たちの存在である。
年末には「メールNo.1グランプリ」という企画が毎年開催されている。そこでは、その年に特に活躍したネタ職人たちが集合し、その頂点である「キング」を決めるべくネタで競い合う。頂点に立つと特製チャンピオンリングが贈呈され、次の優勝者が決まる年末まではネタが読まれるたびに「キング」と呼ばれる。
何度か番組を聴くと、常連ネタ職人の存在が見えてくる。小栗旬筋太郎、ひろだ☆つの、藤田悦史、今に見てろドッカーン!、青い三角フラスコ、犬大丈夫、どうにもならんよ、大体和音、笑福亭グルーチョ、めんたいこ、ストレンジラブ、バナザードアップショー……など、ここには書ききれないほど存在する。
その誰もが、もはや番組のレギュラー/準レギュラーと呼んでも過言ではない存在といえる。そして常に新進気鋭のネタ職人たちが食い込んでくる。そんな職人たちの魅力も、番組にはけっして欠かせない。挙げた職人たちはほぼ毎週採用されている人ばかりで、驚くほど毎回面白いネタを送ってくれるので、逆に読まれない週があると心配になるほど。聴きながら勝手に出席確認をしているような気分になるし、出席が確認できると安心するし嬉しくなる。
ここまで書いたものの、私はラジオ自体を熱心に聴いている時期にブランクが多く、あまり聴かなくなった番組や終わってしまった番組もたくさんある。『爆笑問題カーボーイ』を聴き始めたのだって、2020年ごろからのこと。
ラジオというものは、自分の状況や調子の良し悪しなどによって、聴けるものと聴けないものが出てくるように思う。私の場合『爆笑問題カーボーイ』に関しては、あらゆる番組の中で、いついかなる状況でも聴きやすい番組のひとつ。
太田の興味関心の広さやコーナーの充実度を考えると「あらゆる発言を聞き漏らさず、どの回も聞き逃すまい」と構えてしまいそうなものだが、なぜかこの番組はいつでも構えずにいられて、いつでも帰ってくることができる。
お笑いラジオは特に、番組の定番となる内輪ネタが発生しやすいし、それが番組の魅力にもつながるところがあると思っているけれど、これだけのネタ職人がそろい、爆笑問題のふたりがあらゆることを話題にしていても、近寄りにくい内輪感がまるで発生しない(ように私は思う)。
長い歴史の中でここ数年のほんの短い期間聴いているだけでも、これほどまでに語りたくなる『爆笑問題カーボーイ』。爆笑問題をよくテレビで観る人も、そうでない人も、なんなら苦手意識すらある人でも、ぜひ聴いてみてもらいたい。
著者プロフィール:鈴木 梢(すずき・こずえ)
1989年、千葉県市川市生まれ。出版社や編集プロダクション勤務を経て、現在はフリーランスで活動。主に日本のエンタメ/カルチャー領域の企画・執筆・編集を行う。X:@aco220