センチミリメンタルのワンマンツアー『センチミリメンタル LIVE TOUR 2024 “スーパーウルトラ I LIVE YOU”』が、6月2日のヒューリックホール東京で幕を閉じた。

photo by 山川 哲矢

2024年に入ってからのセンチミリメンタルは、東京で弾き語りワンマンライブを開催したり、『映画 ギヴン 柊mix』のイベントでsyhとコラボしたり、ハワイやスペインでのアニメコンベンションに出演したりしていたものの、バンド編成でツアーをまわるのは約1年ぶり。その間にも新曲は多数リリースされたため、会場に集まった人たちはあの曲もこの曲も聴きたいとワクワクしていたことだろう。

都内はあいにくの豪雨。雨の真ん中で対面したセンチミリメンタルとリスナーたち。最初に披露されたのは「生きていかなくちゃ」で、ギターを鳴らしながら歌うセンチミリメンタルの豊かなボーカル、村田隆嘉(Gt)、永見和也(Ba)、ナガシマタカト(Dr)というおなじみの面々によるバンドサウンドが優にホールを満たした。センチミリメンタルの曲のメロディはリズムが細かく、抑揚が激しい。加えてバンドの音もパワフル。それなのに言葉が埋もれず、一語一句明確に聴こえてくるところに、ボーカリストとしての確かな実力、そして歌詞を大切に届けようという意思を感じた。ライブとは、ミュージシャンとリスナーの人生の交差点。強い雨脚に挫けそうになった心が安らげる場所。ステージと客席を最短で結ぶセンチミリメンタルの歌そして言葉は、リスナーに光も闇も見せながら、最終的には光へと導いていく。いや、センチミリメンタル自身も時に葛藤し、闇に呑まれる夜があるからこそ、「一緒に光へ向かっていけたらいいよね」という希望を込めて音楽を鳴らしているのだろう。

「青春の演舞」に「星のあいだ」と、最初のブロックはアッパーチューン中心。「キヅアト」では「みんなの声、聞かせてください」と呼びかけ、観客の歌声に耳を傾けながら演奏した。映画館を改装してできたこの会場は客席に傾斜があるため、ステージから観客一人ひとりの顔がよく見えるそうだ。バンド編成でのワンマンは今までオールスタンディングが主だったことから、最初のMCでは「次の曲は座ってもらおうか、立ってもらおうか」とホール公演ならではの悩みを打ち明けたセンチミリメンタル。観客とコミュニケーションをとり、着席で楽しむことになった「ひとりごと」は、みんなで歌えるパートがある曲で、「ララララ♪」という観客の歌声に、「最高! ありがとう!」と返した。続いて「とって」とラブソング中心の第2ブロックでは、「月を食べる」が聴く人の心に深い爪痕を残す。白日どころか月光の下にも晒せない愛の歌を歌うセンチミリメンタルの背後には、強烈な光源。影に染まりながら、じわじわと情念の炎を燃やすボーカルには、感情がダイレクトに落とし込まれていた。

photo by 山川 哲矢

この日のMCは、最近見かけたものに対して思ったことをマイペースに語るという等身大のもので、次の曲をどのように楽しみたいか、観客に尋ねながらライブを進めていたのが印象的だった。ともにライブを作る観客と気持ちよく歩幅を合わせたい、誰も置いてけぼりにしたくないという意識の表れだろう。観客がじっくり聴くことを望んだ曲は、センチミリメンタルが「人間の感情の揺らぎを歌えたら」と思いながら制作したという「nag」で、イントロでセンチミリメンタルがさりげなくキーボードを弾いて鳴らしたキラキラとした音、言葉にならない感情を表現するかのように歌詞のない箇所でバンドが掻き鳴らした音など、大切な音を聴き逃さないよう、みんなぐっと集中している。澄んだ空気に包まれた会場に、続けて「死んでしまいたい、」「死んだっていい」を投下。生への執着、人間の根源的な欲求を描いた2曲だ。

センチミリメンタルが曲の導入となるソロをキーボードで奏で、そのメロディにファルセットを乗せていくというライブアレンジが施されたギヴンへの提供曲「冬のはなし」セルフカバーを経てMC。ここでは、ツアー全公演のチケットがソールドアウトしたことに言及し、抽選に外れて悲しんでいる人の声も目にしたと語った。また、応募が殺到したのは嬉しいが、ライブに来たい人が今たくさんいても「いつか別れが来ちゃうのかな」と考えてしまったり、「変わっていくことで失われていくものがあるんじゃないか」という不安になったりするとも。その上で「でも後ろを振り向く瞬間も愛してあげたいなと思ってて」と自身の、ファン一人ひとりの多色の感情を肯定。思えばセンチミリメンタルは、綺麗なだけでは済まない感情をありのまま歌うことで人間そのものを肯定してきたアーティストだった。この日のライブだってそう。そして「気持ちを一つに、一緒にライブを作っていきましょう」と突入した「僕らだけの主題歌」が、名実ともに私たちのテーマソングとして鳴り響く。〈今度後ろを振り向くときは/手でも振って 笑いあえたらいいな〉という歌詞の部分で手を振っていた観客は、それぞれの心の動き、人生の道程に想いを馳せていたことだろう。

photo by 山川 哲矢

『ギヴン』の劇中バンド・syhに提供した「ストレイト」「パレイド」のセルフカバーを披露したところで、早くもラスト1曲。最後のMCでは、制作期間をはじめ日頃孤独な時間が多いため、不安はやっぱりあると前置きしつつ、「こうやってみんなの顔を見ていると、安心するし嬉しいです。いつもありがとう」と観客に感謝を伝えた。さらに“センチミリメンタルの音楽が好き”という理由で会場に集まったファンに対し「大好きなものを大好きと言えるのは大事」と敬意を表しながら、「これからも一緒にセンチミリメンタルの音楽を共有していきませんか?」と提案。衒いなく純度高い愛の強さを歌った曲「スーパーウルトラ I LOVE YOU」をリスナーへの感謝の曲として届けた。ツアータイトル『スーパーウルトラ I LIVE YOU』の基になっている曲だ。〈君に歌う〉というフレーズを歌いながら、客席へ手のひらを差し出したセンチミリメンタル。バラバラな生活を送る(LIVE)私たちでも、同じ音楽へ傾ける愛情(LOVE)で繋がり合えるのがライブの素晴らしいところだ。

アンコールでは、インディーズ時代から歌い続けている「トワイライト・ナイト」、5月29日に配信リリースしたばかりの新曲「正義のすみか」を披露したほか、弾き語りワンマンライブ『センチミリメンタル Acoustic Live “Atelier C”』を8月より全国5都市で開催することを発表した。なお、バンド編成のツアーの次回開催は未定だが、今回チケットの応募が殺到したため、次はもっと大きな会場で考えているとのこと。

「みんなの未来が、そして僕の未来が輝かしいものであるようにという願いを込めて、最後にこの曲をお届けしたいと思います」と「光の中から伝えたいこと」を届けて終了したこの日のステージ。未来への希望を感じさせてくれる音楽は、次に会える日までのお守りとして一人ひとりの心に納められたことだろう。

文:蜂須賀ちなみ

photo by 山川 哲矢
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ライブ情報

センチミリメンタル LIVE TOUR 2024 “スーパーウルトラ I LIVE YOU”
2024年6月2日(日)ヒューリックホール東京

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1.生きていかなくちゃ
2.青春の演舞
3.星のあいだ
4.キヅアト
5.ひとりごと
6.とって
7.月を食べる
8.nag
9.死んでしまいたい、
10.死んだっていい
11.冬のはなし(セルフカバー)
12.僕らだけの主題歌
13.ストレイト(セルフカバー)
14.パレイド(セルフカバー)
15.スーパーウルトラ I LOVE YOU
EN1.トワイライト・ナイト
EN2.正義のすみか
EN3.光の中から伝えたいこと