実はラブコメも大好きな映画ライター・ISOによる、恋愛娯楽映画の観測コラム。第3回は、卒業を目前に控えた高校生たちが突如”爆発”することで物語が動き出す(?)青春ロマコメ映画をご紹介。

期末テストが散々だったとか、席替えで良い席をゲットしたとか、明日の長距離走が憂鬱だとか、誰が好きとか嫌いとか……半径10mで起こるできごとが世界のすべてのように見えて、些細なことで一喜一憂していた学生時代。あの頃はそんな毎日が永遠に続くかのように思えていたけれど、受験や部活の大会なんかでふと終わりを意識し始めてしまえばそこからはあっという間。気付けば束の間の永遠も終わりを迎えてしまうもの。学園生活に限らず、そうやっていろんな「終わり」を経験しながら、人は大人へと成長していきます。

今回紹介したいのは、そんな「終わり」を意識し始めた学生たちの青春ロマコメ。でもその映画で描かれる終わりというのは学園生活ではなく命の終わり。多感な10代は感情が爆発しがちですが、比喩ではなく本当に子供たちが次々と爆発してしまう映画、それが『スポンティニアス』(2020)です。

なんだ、悪趣味なスプラッター映画か…と思ったそこのアナタ、違うんです。確かに設定が残酷で映像も血みどろではありますが、何が起こるか分からないこの世界で懸命に今を生きようとする若者たちの姿を、ユーモアを交えながら誠実に捉えた映画なんです。たくさん死者が出るけど、笑えて感動的で力強くて観終わった後には勇気が湧いてくるんです。信じてください。

原作の同名ヤングアダルト小説を映画化したのは『ラブ&モンスターズ』(2020)や『アンダーウォーター』(2020)などケレン味強めなエンタメ作の脚本を手掛け、本作で映画監督デビューを果たしたブライアン・ダッフィールド。初監督作品にして身近な人の死という重い題材を安っぽくせず、されど明るいトーンで軽快に描く綱渡りのようなバランス感覚を発揮。そんな監督が「デヴィッド・クローネンバーグとジョン・ヒューズの出会い」と表現する本作がどんな物語かというと…

ある日、コヴィントン高校で授業を受けていた一人の生徒が突如爆発して死亡します。警察が調べてもその原因は明らかにならず、「また同じようなことが起きるのでは」と不安になるクラスメイトたち。その一人であるマーラ(キャサリン・ラングフォード)がドラッグで現実逃避をしていると、友人の死を受け後悔せず生きたいと決めたクラスメイトのディラン(チャーリー・プラマー)から告白を受けます。相性の良さからすぐに付き合い始めた二人ですが、その直後に彼女らの眼前でクラスメイトが再び爆発。嫌な予感は的中し、同じクラスの生徒が次々と爆死していきます。

なぜこのクラスだけ?爆発する理由は?対処法は?何も分からないまま政府に隔離され、数が減っていくクラスメイトたち。その中でもカーラとディランは一瞬一瞬を大切に関係を深めていきますが……。

タイトルのスポンティニアス(原題もSpontaneous)とは「自然発生的な、自発的な」という意味。おそらくこれは「自然発生的な爆発」と「自発的に生きる若者たち」というダブルミーニング。本作の日本語版パッケージには謎の「爆発級★ラブストーリー」という嘘みたいな副題が付いていますがそれは無視してください。いや、間違ってはないけどさ…。

爆発といっても四肢や臓物が飛び散るわけではなく、パンッ!と瞬間的に弾け飛ぶ感じなので、グロテスク度は控えめ。イメージとしては赤い液体を入れた風船が破裂する感じ。こう説明するとなんかグロいな…。とにもかくにも血さえ大丈夫であれば食事中でも観れそうなPG-12の安心(?)設計。作品の瑞々しい質感が変わらないように、表現を抑えたであろう作り手の繊細なバランス感覚をここにも感じます。

高校生が謎の爆発で死んでいく末恐ろしい物語でありつつも、青春ロマコメと述べた通り核となるのはマーラとディランの微笑ましいロマンス。この二人の関係が本当に尊い!お互いにしか分からないジョークを言い合い笑い合っている様子がなんともキュート。どちらも映画オタクということで、いろんな監督や俳優、『キャリー』や『E.T.』といった名作への言及やオマージュがあるのもカルチャー的に楽しい。二人でくだらない下ネタで盛り上がったり、時に第四の壁を超えてこちらに話しかけてきたりと、死の恐怖が漂う中でもユーモア全開な二人の姿がエゲツない展開に明るさをもたらします。

ドラッグをキメすぎたマーラが吐くのをディランが手伝うところから関係が進んでいく、ゲロスタートの恋という王道からの外しっぷりも良いのですが、ハロウィンやホームパーティ、プロムなどアメリカの青春ロマコメに期待する要素もしっかり押さえているのもロマコメ好きには嬉しいポイント。もちろんその間にも生徒が爆発するので、定番のロマンチックな展開とはいきませんが。

皮肉屋だけど実は繊細なマーラを演じるのはNetflixシリーズ『13の理由』でブレイクしたキャサリン・ラングフォード。そして優しさと大胆さを兼ね備えた映画オタクのディラン役にはアンドリュー・ヘイ監督『荒野にて』でその演技が高く評価されたチャーリー・プラマー。紋切型でない捻くれた性格の高校生を演じるこの二人が作品の格を上げたと言っても良いくらい両者ともに愛らしく魅力的で、かつ相性が完璧!もう全映画でカップルになってくれ。

政府は原因不明の爆発を繰り返す生徒たちを隔離し、さまざまな検査を行います。マーラたちが防護服を着た研究員に連れ去られ、ビニールで囲われた研究所に閉じ込められる様子はまるでコロナ禍のよう(それを『E.T.』のワンシーンみたいと言ってふざけ合うマーラとディランがまた最高)。米国公開も2020年10月2日なのでパンデミックの真っ最中。爆発=コロナのメタファーにも見えますが、本作が作られたのはパンデミック前。奇妙な一致もあるもんです。

では爆発というのは、何を意味するのか。それはつまるところ「予期せぬ死」の象徴。車に撥ねられたり、雷に打たれたり、銃乱射事件に巻き込まれたり、それこそコロナに感染したり。現実世界では時にフィクションに負けないくらいに理不尽で、残酷で、恐ろしくて、クレイジーなできごとが襲いかかってきます。前触れもなく起こるそんなできごとに人々はどう対処すればよいのか、それを比喩的に描いているのが本作なのです。

たとえば友人が事故に見舞われた時、親が失踪した時、パートナーが病に倒れた時。喪失に打ちのめされ、心に深い傷を負うことは生きていると誰にでもあります。悲しみは簡単に乗り越えられるものではなく、時にドラッグやアルコールに逃れたり、大切な人に辛く当たってしまうかもしれない。それでも人生が続く限り、いつかは前を向く必要があるのです。クラスメイトの爆死を通じて喪失に向き合うプロセスを描き、この不条理でクソッタレな世界で生きていかなければいけない人々に寄り添い、優しく背中を押す。残酷さと笑いが先行する物語ですが、その芯には作り手の祈りにも似た切実な想いが込められているのです。

「学生たちが次々爆死していく映画」と聞いてイメージする悪趣味映画とはどうやら毛色が違うぞ…ということがここまで読んで分かってもらえたと思います。どこかで戦争や虐殺が起こり、政府が国民の意思を無視し、自然環境が着々と破壊され、ネット上ではみんなが弱い者に石を投げる。爆発級に最悪な世界を生きる私たちに、大切なヒントを教えてくれるケレン味豊かな人生讃歌、それが『スポンティニアス』。10代の頃にこんな映画が観たかった!なんで劇場未公開やねん!おかしいやろがい!

著者プロフィール:ISO 
1988年、奈良生まれのフリーライター。劇場プログラムや月刊MOE、CINRA、映画.comをはじめ様々なメディアで映画評、解説、インタビューを担当するほか、音楽作品のレビューや旅行関係のエッセイなどジャンルレスに執筆。
X: @iso_zin_