
THE YELLOW MONKEYの全国ツアー、『BLOCK.3』の最終公演が大盛況のうちに終了。東京ドームでの復活公演から1年を経て、バンドの生誕地・渋谷で証明された「最強の今」。
THE YELLOW MONKEYのライヴでは、さまざまな時間軸が交錯する。ただ、それはタイムマシンで過去や未来へと旅をするような感覚というのとは少しばかり違う。今現在の素晴らしい現実が、どのような変遷の上に成り立っているのかを実感させられることになるのだ。4月30日に行なわれた東京・NHKホールでの公演についてもそれは同じことだった。『Sparkleの惑星X』と銘打たれた彼らの全国ツアーは昨年10月に幕を開け、複数のブロックに分けて展開されてきたが、この日のライヴはその『BLOCK.3』の最終公演にあたるもの。この先には『FINAL BLOCK』も開幕も控えているだけに、いわゆるツアー・ファイナル感はさほどない。ただ、最終ブロックは追加公演的に組まれたものでもあるだけに、そもそもこの公演は三幕構成の物語を締め括るものでもあったのだった。
開演時刻の18時半を迎えると、まだ明るいままの場内には手拍子が自然発生し、BGMを掻き消していく。すぐさま暗転を迎えるかと思いきや、実際の演奏開始までにはそれから15分ほどを要することになったが、どうやら生配信に伴う機材調整に手間取っていたようだ。とはいえ、その待ち時間のあいだ手拍子は一瞬たりとも止むことがなく、いわばNHKホールはライヴが始まる前から心地好い一体感に包まれていた。

そしていよいよ客電が落ち、オープニングSEの“考える煙”に乗って薄暗いステージ上に現れたメンバーたちのシルエットが見えると、拍手と歓声が沸き、次の瞬間に爆発力のあるギターのイントロが炸裂すると、オーディエンスは歓喜と驚きが混ざったかのような反応をみせる。宴の幕開けに用意されていたのは“Sweet & Sweet”、1995年発表のアルバム『FOUR SEASONS』からの1曲であり、同作に先がけてリリースされていたシングル“太陽が燃えている”にカップリング収録されていたナンバーである。そしてこの曲が3分半ほどで幕を閉じると、昨年5月にリリースされた最新作『Sparkle X』からの“罠”へと間髪を入れずに転じていく。
この時点で、この夜の演奏内容が『Sparkle X』と『FOUR SEASONS』の時空を超えた融合を軸とするものになることは明白だった。もちろん最初からそれを承知のうえで心の準備をしていたファンも少なくなかったことだろう。なにしろ今回のツアーの『BLOCK.1』では、ちょうど発売30周年を迎えていた『jaguar hard pain 1944-1994』(1994年)、『BLOCK.2』ではその次作にあたる『smile』(1995年)からの楽曲たちが、最新作からのそれとタッグを組むかのような構成がとられていただけに、『BLOCK.3』で何が起きるかはおのずと想像できるところがあったのだ。とはいえ、たとえそれを想定できていたとしても、久しくライヴで触れていなかった30年前の楽曲が繰り出されれば、こちらとしては思わず声が漏れてしまうというもの。しかもそこで感じられるのは現在と過去とのギャップではなく、双方がお互いを照らし合うかのような眩さだったりするのだから。

冒頭の2曲を終えたところでロビンこと吉井和哉は「元気でしたか、東京!お待たせしました。『BLOCK.3』にようこそ!」と目の前の観衆とカメラの向こうの視聴者たちに挨拶し、THE YELLOW MONKEYとしてのNHKホール公演が実に27年ぶりだという事実を明かす。今から27年前にあたる1998年の9月、彼らはこの会場で4回の公演を行なっている。それは同年4月から翌年3月にかけて長期展開されていた『PUNCH DRUNKARD TOUR 1998/99』の一環としてのものだった。さらに補足しておくならば、『野性の証明』と銘打ちながら1996年に実施された『FOUR SEASONS』に伴うツアーの際にも、4人はこの場所に立っている。その後、この会場には収まりきらないバンドになっていった彼らには、NHKホール以上に頻度高くライヴを行なってきた場所がいくつもある。ただ、中盤に設けられていたメンバー個々のトーク場面でヒーセこと廣瀬洋一も語っていたように、NHKホールのある渋谷はこのバンドにとって誕生の地でもある。ギタリストにエマこと菊地英昭を迎えてバンドの体制が整ったのは、1989年の師走のこと。その顔ぶれでの初のライヴが渋谷・ラママで行なわれたのが同年12月28日であること、それ以来ずっと彼らがその日を記念日として大切にしてきたことは、改めて説明するまでもないだろう。

彼らのライヴと向き合っていると、こうして時間軸を逆戻りして遠い過去の記憶を反芻させられることがしばしばある。観ている側がこんな具合なのだから、当事者である4人にとってはそれ以上に思うところがあるのではないだろうか。実際、『BLOCK.1』での公演の際には、かつて『jaguar hard pain 1944-1994』で打ち出されていた自我や世界観といったものが長い年月を経ながら熟成されてきたことにより『Sparkle X』が生まれ得たのではないかと感じられたものだが、当然ながらそれは『smile』や『FOUR SEASONS』にも当て嵌まることだ。しかも彼らは驚くべきことに、この2枚のアルバムを同じ年のうちに世に放っている(1995年2月に前者、11月に後者がリリースされている)。精力的なライヴ活動を続けながら、1年のあいだに2枚も怪物アルバムを発表していたという現実は、信じがたいほどに圧倒的だ。

さて、話がライヴ自体の流れから逸れてしまったが、冒頭から畳み掛けるようにして始まったこの日のステージは、自在に時空を飛び越えながら、豊かな緩急とともに、過去と現在の間に本質的な違いなど皆無であることを示すかのように進んでいった。吉井自身もステージ上で語っていたが、バンドの歴史が長くなるにしたがい「アルバム発表当時のツアーで披露したきりほとんど演奏せずにきた曲」というのが増えてくるものだ。もちろんそれはTHE YELLOW MONKEYに限った話ではないわけだが、今回のような最新作と過去作品とのカップリングを軸とした構成によるツアーというのは、新鮮さと満足感の双方を求めるうえでとても有効なのではないかと感じられたし、それによって愛すべき楽曲たちが埋もれずに済むというのも素晴らしいことではないかと思えた。

そして、久しぶりに耳にした30年前の楽曲たちと並ぶ“今”の楽曲たちもまた、ツアーの過程の中で進化を遂げつつあることを実感させられた。なかでもそれが顕著なのは“ラプソディ”だろう。今やオーディエンスを踊らさずにおかなくなっているこの曲の、人を巻き込む力の強さには尋常ではないものがある。しかもそれは単純に演奏の機会を重ねてきたことに起因する進化ではなく、彼ら自身がフェスなどの機会を通じて未知のオーディエンスに触れてきたからこその“想定以上の開花”だったのではないかとも思えてならない。
ステージの終盤、自己初のロンドン・レコーディング作品となった『FOUR SEASONS』の制作背景や、当時の彼らが辿り着いていた音楽的な境地などについて触れながら披露された“空の青と本当の気持ち”も心に染みたし、アンコールの1曲目でいきなり“パンチドランカー”が繰り出されたのも痛快だった。そして、少しばかりノスタルジックな気分をもたらす“追憶のマーメイド”を経て、今回のツアーで初登場となった最新作からの“Beaver”をもって、2時間10分ほどに及ぶこの夜の公演は幕を閉じた。最後の最後に派手で爆発的な盛り上がりを求めるのではなく、まるでプライヴェートな空間で演奏しているかのようなさりげなさで披露された“Beaver”も心地好かった。そこには、誕生から36年目を迎えている彼らだからこその、自然体の包容力があった。

そして最後に付け加えておきたいのは、『Sparkle X』の発売に先駆けて昨年4月27日に東京ドーム公演が行なわれたあの時点から1年と少々を経てきた現在、吉井の歌唱が、本来あるべき状態に戻ったと言っていいほどまで復調しているという事実だ。彼自身「ときどき(声が)ひっくり返っちゃうこともあるけど、それも味だと思って(笑)」などと謙遜していたが、今現在のTHE YELLOW MONKEYは、復活という言葉では言い尽くせないほどの何かを遂げているのだと思わずにいられない。いわば進化と深化を同時に進めながら過去最強の次元へと近づきつつある彼らが、この5月15日に開幕を控えている『FINAL BLOCK』で何を見せてくれるのかを、楽しみにしていたいところだ。どれほど期待感を膨らませながら臨もうと、きっとそれを超えるものを彼らは提示してくれることだろう。
ライター:増田勇一
Photo: Masato Yokoyama
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