演劇の祭典「演劇ドラフトグランプリ THE FINAL」開催直前、荒牧慶彦インタビュー
俳優・荒牧慶彦がプロデュースを手がける演劇の祭典「演劇ドラフトグランプリ THE FINAL」が12月10日に東京・日本武道館にて開催される。2022年に始まった「演劇ドラフトグランプリ」は、座長となる俳優5名が、共に演劇を作る俳優と演出家を“ドラフト会議”で選び、日本武道館で上演。審査員と観客による投票で、グランプリを決めるという企画だ。さまざまな俳優・演出家が集い、グランプリを目指す姿には多くのドラマがあり、初年度から大きな話題を集めた。しかし、タイトル通り今年で一旦ピリオドが打たれることとなった。「演劇ドラフトグランプリ」というコンテンツが、演劇界、そして俳優・荒牧慶彦にもたらしたものとは。
最後に華々しい花火を打ち上げられるように
──まずは今年の「演劇ドラフトグランプリ THE FINAL」を直前に控えた今の気持ちを聞かせてください。
「ファイナルか……」と。初回を開催して、好評をいただいて去年2回目ができて、そして今年3回目ができるというのはすごく光栄なこと。たくさんの方々に応援していただいて、支えられてでてきたコンテンツなので、最後にしてしまうのはもったいないなという気持ちもありますが、ファイナルにすることは自分で決めたので、最後に華々しい花火を打ち上げられるようにプロデューサーとして頑張っていきたいなと思っています。
──どうしてファイナルにするのでしょうか?
僕、物事において“3”が好きなんですよ。些細なことで言ったらボケるにしても“天丼”は3回までだなと思っているし、物事を進める上で3という数字をすごく大事にしている。だからこの「演劇ドラフトグランプリ」も3回までかなと思って。「演劇ドラフトグランプリ」で示したい意義も見せられたと思いますし。「もっとやってほしい」というお声をいただければ、いつか復活するかもしれませんが、一旦ここで区切りを打ちます。
──「示したい意義が見せられた」とのことですが、この「演劇ドラフトグランプリ」というものを立ち上げた際の意図や、最初に考えていた意義というものは?
立ち上げたきっかけはすごく小さなアイデアでした。コロナ禍に松田誠さんと対談した際「演劇を広めるために何かアイデアない?」と言われて、日頃から思っていた、普段とは逆で俳優が選ぶ側になって作品を作ってみたら面白いんじゃないかという案を提案させてもらったことから始まりました。僕自身、大学生まで芸能に触れてこなかった人間なので、一般の方の感覚を知っているつもりなんですが、その目線で言うと、どうしても舞台って敷居が高いですよね。実際、金額も高いし、なかなか舞台を見る機会がない人のほうが多いと思うんです。そのなかで「ACTORS☆LEAGUE」とか「演劇ドラフトグランプリ」など、いろんな趣向を凝らした企画を行うことで、舞台界が旋風を巻き起こしているなと思ってもらえたら、そして演劇というものをもっと身近に感じてもらえるきっかけになったらと思って提案しました。さらに一晩で4~5つの作品を観られる機会はそうそうない。観たことのない演出家、役者と出会ってほしかったんです。僕らが主戦上とする2.5次元という業界は芝居、歌、踊り、殺陣など様々な能力を求められます。ベテランから若手までたくさんの素晴らしい役者とゲームや漫画の世界を表現するためにアイディアを駆使する天才的な演出家がいます。たくさんのお客様にそれらの才能と出会ってほしかったんです。
──1年目の手応え、2年目の手応えをそれぞれ教えてください。
1年目は、僕自身にとっても、関係者も役者たちにとっても本当に未知のものだったので、一体どんなものになるのかわからなくて。“こういうものになってほしいな”という予想図は一応ありましたけど、果たしてそれに辿り着けるのかは全くわからず…。だけど、実際にやってみたら、自分たちが描いた予想図よりも本当に大きなものになったんです。たくさんの方が「すごいじゃん」「面白いじゃん」と言ってくださって、すごくうれしかった印象があります。めちゃくちゃ緊張しましたけどね。2年目は、勝手がわかった分すごく楽しめました。ただ、プロデューサーなので、良くも悪くも、自分のチームの勝ち負けよりも「この企画自体がうまくいってほしい」という気持ちのほうが勝っちゃったので、今年は座長として勝ちに行きたいなと思っています。もちろん今までも勝ちを狙ってはいましたけど、今年はより強く、グランプリを獲りたいと思っています。自分で作った企画でど真ん中を獲りたい。
プロットの時点で大爆笑、荒牧チームの演目は
──そんな今年の荒牧さんのチームの劇団員は砂川脩弥さん、廣野凌大さん、松田昇大さん、持田悠生さん。強みはどのようなところに感じていますか?
若さですかね。若くてエネルギッシュで。メンバーも、共演経験があったり、僕のプロデュース作品に出ていたりして、僕が全員の長所も短所も把握し切っていることも強みかなと思います。
──演出を手がけるのは三浦 香さんです。
香さんの演出を受けるのは初めてなのですが、楽しみですね。いろいろな人から、香さんはすごく素敵な演出家だと聞いていますし、物事をはっきり言ってくださる方だということも聞いていて。僕ははっきり言ってくださる方のほうが好みなので、合うんじゃないかな。
──ちなみに、どのような作品になるかは……?
台本はいただいているのですが(※取材は11月下旬に実施)、それがちょっととんでもない台本なんです。プロット会議のとき、みんながアイデアを出し終わったあと、香さんがポンっと「実はプロットがあるんだよね」と言ってプロットを見せてくれたのですが、その段階で大爆笑が起きました。この作品がどういった受けとめられ方をするのかは本当にわかりませんが、とにかく香さんのアイディアの詰まった作品で僕らはとにかく全力で演じます。大爆笑になるか大号泣になるか…(笑)とにかく早く見てほしいですね。
──楽しみにしています。ちなみにドラフト会議ではいつもどのようなことを考えているんですか?
真っ白です。僕はとりあえずテーマを引いてからメンバーを決めようと思っているので。
──では今回もテーマを見てメンバーを決めた?
はい。といっても前回は「アイドル」がテーマだったので踊れるメンバーを集めようって、考えやすかったんですけど、今回は「雪山」だったので「どうしよう……」と、それこそ真っ白に(笑)。そこで、まずはこの企画で一緒にやってみたかった凌大を選んで、僕と凌大で作りやすそうだなと思う人たちを集めていきました。
──他の劇団の組み合わせについてはどのように感じましたか?
いつもそうなんですけど、不思議なことになんだかんだ良いバランスに落ち着くんですよね。アンバランスなチームがない。座長が持っているポテンシャルもあるのかなと思いますけど。
──今年の座長でいうと、須賀健太さんは「演劇ドラフトグランプリ」初参加ですね。
はい。健太くんは演劇に熱い人だと周りから聞いていたのですが、実際にドラマ共演の機会がありまして、本当に熱い人でした。「演劇ドラフトグランプリ」についても、健太くんのほうから「面白いことをやっていますよね」と興味を持ってくださっていたので、オファーさせていただきました。「演劇ドラフトグランプリ」に新たな風を吹かせてくれるような、起爆剤になってもらえたらうれしいですね。
演出家も本気で悔しがってくれることがうれしい
──過去2年の「演劇ドラフトグランプリ」の制作や当日の出来事で、特に面白かった思い出を教えてください。
去年の劇団「一番星」は、演目がコメディだったので楽しかったですね。お客さんに笑ってもらえるだろうなとは思っていましたけど、あんなに大爆笑が起きるのは想定外だったので、びっくりしつつもうれしかった記憶があります。やればやるほど笑いが起きて、無敵モードでした。稽古場では、最初はスタッフさんも笑ってくれていましたが、稽古を重ねるたびに見慣れてきてどんどん笑いがなくなっていくので、「これ、合ってるのかな」と不安になっていて。で、武道館でやったらドンっと大爆笑が取れたので「これはグランプリ取ったぞ」と思ったら……取れなかった(笑)。
──では、過去2回のなかで特にうれしかったことや、感動したことを挙げるなら?
みんなが褒めてくれることがうれしいです。企画自体もそうですし、染くん(染谷俊之)なんかは、この企画をプロデュースして完遂したということに対してしょっちゅう褒めてくれるんですよ。「お前、すげえな!」「よくやってるな」って。些細なことかもしれないですが、それは結構うれしいですね。
──この企画は、演出家の方々も普段とは作品への関わり方は違うと思いますが、「演劇ドラフトグランプリ」に関わっている演出家からの反響で印象的なものはありますか?
皆さん、本気で悔しがってくれるんです。1年目に一緒にやった史也さん(松崎史也)も、去年一緒だった川尻さん(川尻恵太)も。香さんは去年、「本当に悔しい」ってちょっと涙目になっていて。このお祭り企画に対して真剣勝負を挑んでくれていることが本当にうれしいですね。
──そのために勝敗を付けているところもあるのでしょうか?
勝ち負けについて言うと……毎年「演劇ドラフトグランプリ」の挨拶でも話していますが、本来であれば、演劇や役者というものに優劣をつけるべきではないと僕は思っています。ただ、お祭り的な面白さを加えるうえでは、全チーム優勝では企画として成り立たない。だから、あえて勝敗を付けています。勝ち負けによって生まれる感動やストーリーもあると思うし、そこも含めてエンタメだと思っています。ただ、本当に全作品が素晴らしくて、その夜、武道館に愛された作品が優勝していると思います。
──豪華な俳優さんが一堂に会すわけですが、舞台裏や楽屋の雰囲気はどのようなものなのでしょうか?
本番が終わったチームはニコニコして廊下を歩いていますけど、本番を前にしたチームは、みんなドアを閉めて集中してセリフ合わせをしています。
──終わった人から楽になるんですね(笑)。
はい、終わったらもうみんなでニコニコしながら他のチームの演劇を見ています。
──そこで生まれる交流やコミュニケーションをご覧になって、プロデューサーとして何か感じるものはありますか?
なんか良いですよね。今回で言えば健太くんは初めて会う人も多いと思うし、そうやって普段なかなか共演できない人とも会えることで、次に共演するときに距離を詰める時間が短くなったり、「演劇ドラフトグランプリ一緒だったね」って言って親近感が湧いてくれたらすごくうれしいです。
ニューヨークで感じた2.5次元作品の可能性
──「演劇ドラフトグランプリ」を開催・出演したことは、ご自身の俳優活動やお芝居には何か影響を与えましたか?
影響はとてもありますね。一番感じるのは、周りがよく見えるようになったこと。特にスタッフさんの観点を持てるようになったことが大きくて。最近、プロデュース作品を経験してから久しぶりに俳優としてのみ参加する作品があったんです。そのプロデューサーから「荒牧くんは変わった!」って言われました。「前から俳優としての視野は広かったけれど、全体への視野の広さやスタッフの気持ちへの配慮などすごい人になったね。プロデュースするとこんなふうに変わるんだね」と言っていただきました。
些細なことですがたとえばメイキング映像を撮りたいとスタッフさんが考えているとして、でも役者は台本に集中しているときに話しかけられると集中力が途切れてしまうので、億劫になってしまうこともある。そういうときに、僕が率先して「今日、メイキング撮るから準備をしておこうよ」と声をかけたり、もちろん逆にスタッフさんに「今、役者はみんな集中しているので、30分後くらいでもいいですか?」と伝えることもできる。小さなことからこつこつと役者とスタッフの間の架け橋になっていきたいし、そういう俯瞰で見る目というのは養われました。
──それはお芝居にも影響を与えていますか?
はい、周りがよく見えるようになったことで、自分のこともよく見えるようになって。自分の立ち位置が明確になった。それはお芝居をする面でもすごくメリットだなと思います。
──「演劇ドラフトグランプリ」の開催を経た今、日本の演劇やエンタメの可能性もしくは課題はどのように考えていますか?
先日、「進撃の巨人」-The Musicalのニューヨーク公演「ATTACK on TITAN: The Musical」を観にニューヨークに行ったんです。そこで、ニューヨークの方々が日本のエンタメ、特に日本のアニメや漫画、ゲームを原作にしたものをすごく求めているなと感じました。それがすごくうれしくて。日本では演劇、特に2.5次元舞台は、まだニッチなものというか、知る人ぞ知る、楽しめる人だけが楽しむものみたいなものですが、海外では「2.5 Dimensionalがすごい!」って言ってもらえていて。可能性はまだまだあると感じたので、もっと広げていかなきゃいけないなと思いました。
──2025年の荒牧さんご自身の抱負や実現したいと思っていることを教えてください。
2025年は、俳優としてちょっと新しいジャンルに挑戦します。お客様にはきっと喜んでもらえると思うんですけど、僕的には未知な世界なのでしっかり頑張りたいなと。2024年はプロデュースものが多かったですが、2025年は2.5次元作品が多くなるので、それを楽しみたいです。僕は2.5次元が大好きですし、やはりホームだと思っていますから。もちろんプロデュースも続けますし、原作のない作品や映像も出演します。とにかく好奇心に正直に総合的なエンターテインメントを創っていくことに邁進したいと思います。あとは東京以外の土地にも行ってファンの方たちに会いたいですね。
──では最後に、改めて今年の「演劇ドラフトグランプリ THE FINAL」への意気込みを聞かせてください。
プロデューサーとしては、とにかく無事に終えられるようにということだけですね。みんな本当に忙しい中で稽古をしてくれていますので、体調不良や大きな怪我がないようにと。今回はファイナルということで、たぶんみんな張り切ってくれると思うのですが、その心配が一番です。俳優としては、自分の持っているスキルを全部活かして、お客様の心を掴みに行きたいです。
演劇はお客様に観ていただいて完成します。皆さんの拍手と笑顔を、時に涙をいただけるように精一杯演じますのでどうぞよろしくお願いします。
文・取材=小林千絵
写真=Takahiro Kikuchi
ヘアメイク=akenoko▲
スタイリング=ヨシダミホ
「演劇ドラフトグランプリ THE FINAL」
【日程】2024年12月10日(火)17:00開演
【場所】日本武道館
◆総合演出
植木 豪
◆総合司会
山寺宏一
◆ナビゲーター
阿部顕嵐
◆現場レポーター
高野 洸 福澤 侑
◆各劇団(出演者・演出)
劇団『雪猿』
【座長】荒牧慶彦
【演出】三浦 香 【演劇テーマ】雪山
【劇団員】砂川脩弥 廣野凌大 松田昇大 持田悠生
劇団『演劇やろうぜ』
【座長】染谷俊之
【演出】毛利亘宏 【演劇テーマ】ピクニック
【劇団員】佐藤信長 田中涼星 富田 翔 古谷大和
劇団『SADAMEN』
【座長】玉城裕規
【演出】中屋敷法仁 【演劇テーマ】運命
【劇団員】植田圭輔 髙木 俊 服部武雄 松島勇之介
劇団『勝部』
【座長】七海ひろき
【演出】私オム 【演劇テーマ】部活
【劇団員】木津つばさ 椎名鯛造 高橋祐理 萩野 崇
劇団『アクタゴン』
【座長】須賀健太
【演出】川尻恵太 【演劇テーマ】引っ越し
【劇団員】唐橋 充 松井勇歩 三井淳平 山﨑晶吾
▼「演劇ドラフトグランプリ」公式X
@engeki_draftgp
▼「演劇ドラフトグランプリ THE FINAL」公式HP
https://www.theater-complex- original.jp/engeki_draftgp/
<配信情報>
シアターコンプレックスTOWNにて配信!
【配信日時】
2024年12月10日(火)17:00
【チケット販売期間】
2024年12月3日(火)19:00〜2025年1月5日(日)20:00
【見逃し視聴期間】
配信終了後〜2025年1月5日(日)23:59まで
※12月20日(金)20:00よりメイキング映像が追加されます
(追加後も本編の視聴は可能です)
【チケット料金】
一般チケット:4,500円(税込)
スペシャル特典付きチケット:5,500円(税込)
【視聴ページ】
https://www.theater-complex.town/ja/articles/aGWp2kNadg3sqqYqF59Sg1