さまざまな俳優に、自身の「好きなコト」を聞く本企画。第三回は、俳優・中尾暢樹さんと「ヴィンテージメガネ」。

撮影のために四本のメガネを持参してくれた中尾さん。それぞれを自然に掛けこなしながら、ヴィンテージメガネとの出会いや、魅力についてお話いただきました。

ーヴィンテージメガネに興味を持ったきっかけは?

3、4年前とかですかね。先輩とごはんを食べる約束をしていたんですが、その前にメガネを修理に出したいからついてきてと言われて。このメガネを買ったお店へついていきました。ちなみに壊れたメガネを見せてもらったら、真っ二つになっていて(笑)。

ーえ!そんな状態でも直してもらえるんですか。

購入したら、一生面倒見てくれるメガネ屋さんなんです。そこで買ったら、イヌに食べられようがどうしようが直せる。もちろん元通りにはならないですけど、素材やバランスを整えた修理・制作もできるお店で。

ーどんなお店なのか、気になります。

仕事やプライベートの話から、店主さんが人柄や性格を見て眼鏡を勧めてくれたりするんです。ヴィンテージのデッドストックを扱っているんですが、店頭にはそんなに並んでおらず、お話しながら「なるほど、ちょっと待っててくださいね」とお店の奥から2、3本をポンと出してくれて。「ここらへんだったらどう?」みたいな。そんなふうにセレクトしてもらう経験がなかったので、選ぶ過程から面白いなと。

ヴィンテージの知識だけじゃなく、レンズの真ん中に目が来るようにとか、基礎的な選び方も教えてもらいました。それまでは何も知らずにメガネを掛けていたので、世界が広がったというか。

これは、二度目にお店へ行ったときに初めて買ったものです。正確な年代は忘れたんですけど、僕が生まれる前のものなんですよ。ポルタロマーナというヴィンテージで、カルティエのウッドテンプルという名作の元になったデザインと言われていて。木の温もりが感じられますよね。この丁番部分はバネになってて、開きがめちゃくちゃ柔らかい。職人が一つ一つ手作りしていた時代の丁寧さがわかります。

ーほんとだ、木目が美しい…金縁って珍しいですね。

最初に見せていただいたときは「金縁ってちょっとどうかな…?」と思ったんですけど、掛けてみるとむしろ品がある。当時は現代よりも金メッキの純度が高いので、色味が全然違うんですよ。サイズもぴったりで、ここまで形の合うビンテージのないですよとか言われたら…「俺専用なのかな?」みたいに思っちゃうじゃないですか(笑)。

ーいいお店に出会ったことで、ヴィンテージメガネの道が開けたんですね。

そうですね!そのお店はヴィンテージメガネだけじゃなく、ジュエリーや家具、骨董品も取り扱っていて。世界中で買付してきた宝石や骨董品を見せてもらうだけでも楽しいです。

反戦のために作られたタンクリングや、現代とはカット方法が違う宝石、金や銀を細くして編み上げるように作られたフィリグリー、聖者の形を模したアクセサリー…分厚い歴史を感じる品がたくさん置いてあったりもして。なんかもう、博物館みたいなんですよ。実際に博物館に収蔵される予定だったものがあったりするし(笑)。ヨーロッパの元貴族の家系を訪ねて、買い付けたりしているそうです。

ー毎回同じお店で購入されてるんですか?

4つ持ってるうちの3つはその店で買ったんですけど、この銀縁メガネは違うお店です。ヴィンテージ眼鏡に目覚めてから、お店の方に教えていただいたりする中で知識が増えていきました。そんなある日、フラッと立ち寄った古着屋さんで見つけて。ティファニーのヴィンテージメガネなんですけど、シルバーフレームでこの形って、敢えて言えば“マダム”っぽい。でも、かけてみたら僕の男っぽい顔を中和するような、バランスを取ってくれるデザインで。

あと、丁番にある石もよく見るとここだけ金になってて、細工が細やかなんです。一個一個職人が入れたのかな、と考えるのがやっぱり楽しいんですよね。値段を見たら「お、結構するな」とは思ったんですけど、これもきっと出会いというか。

ー撮影中も、すごくお似合いだなと思ってました。コーディネートが難しそうなメガネも、すごく掛けこなしていますよね。

いろいろなメガネを掛けてきたから、どんどん抵抗がなくなり、挑戦するようになってきましたね。友達にも勧めることもあるんですけど「いや、自分は似合わないよ」って言いながら、“似合わない顔”しながら掛けるんです。 これね、すごく良くない。パッと見で似合わないと思っても、似合うものはたくさんありますから。似合うように掛ければ、似合うんです。慣れが大事だと僕は思ってます。 

そうか、慣れが大事。

あとは、やっぱり自分が好きかどうか。例えばこれは、ジョニー・デップが掛けてることで有名なTART OPTICALと同じ工場で作られたヴィンテージメガネなんですけど。素材や職人は同じだけど、違うラインで製造されていて形も少し違う。前枠とテンプルを繋ぐ部分が、ちょっと上がってますね。

先ほどのお店で、僕の目の形にすごく合うと言ってくださって。あと、銀の細工があるじゃないですか。この部分も手作業で入れてるから、よーく見ると細かい粉が入ってるんですよ… けど言われなきゃわかんないですよね。つまりこれ、自己満なんです(笑)。

もう何十年も前のものでも、こういう痕跡を見て作業する様子や、その過程でこういう粉が入っちゃったんだな…と歴史を感じられるのがいい。掛けているだけじゃ誰も分からないけど、歴史を感じるものを身につけていると、僕自身のテンションがすごく上がるので。

ー歴史を身につけているんですね。メガネを探すときに、ポイントにしてることってなんですか?

ヴィンテージに限らず、しっくり来るかどうかですね。もちろん、冒険することもありますよ。売ったり人にあげたりすることもあるので入れ替わりがあるんですが、今は10本弱持ってるのかな。そのうち4本がヴィンテージです。コレクション欲もあるんですけど、どちらかというと僕はガシガシ使いたい。スニーカーも好きなんですけど、どんなプレミア品が手に入ろうが履いちゃいます(笑)。

ーちなみに、このほかよりも少しゴツめなハーフリムのメガネは?

これは、今はもう作れない本鼈甲(べっこう)の眼鏡なんです。鼈甲は亀の甲羅を職人が一枚一枚重ねて作るので、職人の調整具合で部分ごとに明るい色だったり、濃い部分が混在します。現在はワシントン条約で製造が禁止されているので、流通してる鼈甲製品は過去に作られたものだけ。世界にも限られたものだから、と言われるとまた欲しくなっちゃって。

ちょっと渋めのデザインですけど、一生使っていく想定で敢えてごつめを購入しました。今の僕には、まだ少し重めな印象かもしれないけれど、将来的にもっと似合うはず。年齢を重ねて短髪になって、髭とか蓄えて、恰幅も良くなってくるのかな…と未来の自分を想像しつつ。

ー未来を想像しながら購入するって、すごく素敵ですね。そこまで眼鏡がお好きだと、自分でデザインしたいという気持ちになったり?

うーん、ならないんですよね。気持ちがないわけじゃないけど、ヴィンテージメガネしかり、すでに素敵なものがまだまだたくさんあるじゃないですか。想像の範疇外のものが出てくるから、今はそれを見つけるほうが面白いです。

ーなるほど。今日もお話を聞きながら、見つけたり、選ぶ楽しさを重要視してるのが伝わってきました。

昔の人たちが作ったものって、“本物”だなあと感じるんです。一つ一つ丁寧に作られていて、手に取るだけで重厚感がある。 もちろん現代にある製品も素晴らしいけれど、昔のものは昔ならではの良さがあるなと見ていて感じますね。それに、すごく勉強になるんです。

それもあって最近は良いものを厳選して購入し、年を重ねていきたいと考えるようになりました。少し前までは洋服をたくさん買って、一年に数回しか着ないで過ぎていくこともあったけど、ちゃんと見極めようって。

ーヴィンテージメガネとの出会いで、買い物観や人生観も変わったんですね。ちなみに今後、買いたいものはありますか?

実は、明日が自動車学校の卒業試験なんですよ。やっと車を外で乗れるようになるので、「サングラス必要じゃん!」みたいになりそうですよね。あとは、ヴィンテージカーも気になるけど…これハマったらやばいですよね…(笑)。

しかも、さっき話した眼鏡屋さんが最近は車の取扱いも始めたそうなんですよ。店主さんはヴィンテージカーに乗ってるんですけど、話を聞き始めたらやばそうだなと。絶対、好きなやつなので…(笑)。

プロフィール:中尾暢樹(ナカオ・マサキ)
1996年11月27日生まれ、埼玉県出身。 2016年「動物戦隊ジュウオウジャー」(EX)でドラマ初出演かつ初主演を務める。以降、舞台、映画、ドラマなど多岐に渡り活躍中。 主な出演作に、ライブ・スペクタクル「NARUTO-ナルト-」シリーズ、ドラマ「あなたの番です」、ドラマ「セレブ男子は手に負えません」、ドラマ「演じ屋Re:act」、映画「チア男子!!」などがある。
公式サイト: https://www.watanabepro.co.jp/mypage/10000066/
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