さまざまな著名人に、自身の「好きなコト」を聞く本企画。第五回は、「爆上戦隊ブンブンジャー」範道大也(はんどう・たいや)/ブンレッド役にて人気急上昇中の俳優・井内悠陽さんと「読書」。気づかせてくれた1冊、実写化したら絶対に出たい作品、読書のこだわりについてお話いただきました。

──そもそも井内さんが読書をするようになったきっかけは何だったのでしょうか?

僕は子供の頃からじっとしているのが苦手で、読書もどちらかというと苦手だったんです。でもあるとき学校の先生から、「俳優を目指すなら、読解力も必要だし、活字に慣れるという意味でも本を読みましょう」と言われて。そこからいろいろ読んでいくうちに面白さを感じるようになっていきました。

──読み始めたのはいつ頃?

高校1年生くらいです。それまではほぼ読んだことがありませんでした。

──本を読むように言われて、最初に手に取った作品は何でしたか?

「人間失格」(著:太宰治)でした。

──それまで小説をほぼ読んだことがない人にとっては、なかなかハードな1冊だったのでは?

はい……。どんな小説があるのか、どんな作品が人気なのかも全然知らなかったので、たまたま書店でピックアップされていて目に入ったのが「人間失格」で。「タイトルだけは聞いたことがある!」と思ってそのまま買ったんですが……余計に苦手になりました(笑)。「何でこんなに難しい言葉をいっぱい使うんだろう」って。

──でも最後まで読んだのですか?

はい、一応読み終えはしましたけど……内容は一切覚えていないです(笑)。

──そこから読書が面白いと思うようになったのは、何がきっかけだったのでしょう?

そのきっかけになったのが、「15歳のテロリスト」(著:松村涼哉)です。これを読んで小説の面白さを初めて知りました。「人間失格」から本を読み始めたものの、しばらくは、前半ページは作業のような気持ちだったんです。とりあえず説明が続いて、最後の50ページくらいで面白くなってくるというイメージ。でも「15歳のテロリスト」は最初から面白くて。「最初から楽しめる本もあるんだ!」と知ったのがこの作品でした。そこから、積極的に本を読むようになりました。

──「15歳のテロリスト」は、それまで読んでいた作品とは何が違ったのだと思いますか?

まだ小説というものに慣れていなかったというのもあると思うんですけど、それまでは文字を読みながら状況や風景を思い浮かべるのが難しかった。ですが、ちょうど慣れてきたタイミングだったこともあり、自分の中で状況を風景を思い浮かべながら読んだ際に、「今思い浮かべているこの風景や人物は、自分の頭の中にしかいないんだ」って気付いたんですよね。そしたら急に面白く感じられるようになりました。それにこの作品はタイトルの通り、15歳の子が主人公。当時の自分の年齢と近かったこともあって、設定は非現実的ですが、登場人物の気持ちはリアル。そのアンバランスさも面白く感じた記憶があります。

──面白いと思える作品と出会ってから、本選びは変わりましたか?

はい。分厚い本にも手を出すようになりました。それまでは1日5ページずつとかしか読めなかったので、2〜300ページのものが限界だったんですけど、「15歳のテロリスト」からは、気になれば500ページくらいのものでも平気で読めるようになりました。

──いろいろ読んできた現在の井内さんの好きなジャンルや、好きなタイプの作品はどういうものですか?

まだあんまり見つけられていなくて。ジャンルも作家さんもバラバラですね。

──では本を選ぶ基準は?

完全に、タイトルと表紙です。

──あらすじを読んだりは?

タイトルから全然内容が想像つかないときは、あらすじを確認することもあるのですが、逆にわからなすぎるからこそ、あらすじも一切確認せずに読んでみようと買うこともあります。

──直感で選ぶんですね。タイトルや表紙はどういうものに惹かれがちですか?

何だろう? でも想像ができなければできないほど惹かれるような気がします。「ルビンの壺が割れた」(著:宿野かほる)だったら「どういう意味なんだろう」と思って惹かれましたし、「人間標本」(著:湊かなえ)は単語の意味はわかるけど、そのままの意味だったらすごく不気味だなと惹かれて読み始めました。

──読書にまつわるこだわりも教えてください。まずは“積ん読”(購入した本を読まずに積んだままにしておくこと)する、もしくは平行して何冊も読める派ですか? それとも1冊ずつ買って読む派ですか?

1冊ずつですね。読み始めて「自分にはあんまり合っていないかも」と思った本でも、途中でやめられなくて。ちょっとでも読んだものだったら最後まで読みたいと思います。1冊読み終わるまでは次の作品に手をつけられないです。だから今も、次に読みたい本が5〜6冊控えています(笑)。

──ブックカバーや栞などには何かこだわりはありますか?

読むときは、もともと本についているカバーは外して、その代わりに書店でつけてもらったブックカバーを付けます。本を読むようになってから、読んだ本を忘れないように、全部本棚に並べているのですが、僕はどこにでも本を持ち歩くようにしているので、ボロボロになっちゃうんです。でも読み終わったあと本棚に並べることを考えると、少しでも綺麗な状態にしておきたいなと思い、カバーだけは綺麗にしています。

──今日持ってきてくださった本もすべて新品のようにきれいだなと思ったのですが、そういうこだわりがあったからだったんですね。

はい。だからカバーを外すと結構ボロボロです(笑)。

──読書環境でのこだわりはありますか?

できるだけ暗いところで読むようにしています。目にはよくないですけど、家で本を読むときとは間接照明だけをつけた状態で読んだり、焚き火の音や、カフェの音などのBGMを流しながら読むことも多いです。

──音楽ではなく、自然音のようなものなんですね。

はい。歌を聴きながら読んでいたこともあったのですが、音楽に気を取られて本の内容を全然覚えてなかったということが結構あったので、それからはBGMには気をつけるようにしています。

──できるだけ暗い場所で読んだり、環境音の中で読んだりするのは、没入したいから?

そうです。字だけを読んでいるとどうしても集中力が切れちゃうときがあるので。あと、毎回そういう環境を作るようにしていたら、“その状況になったら集中する”という体になってきているような気もします。

──今日は井内さんに「紹介したい本」として5冊、お気に入りのものを持ってきてもらいましたので、ここからは、その5冊についてお話を伺っていきたいと思います。「15歳のテロリスト」は小説を好きになった1冊ということでお話しいただきましたので、それ以外の4冊について、どういう理由でチョイスしたのか教えてください。

「52ヘルツのクジラたち」(著:町田そのこ)は、今までで一番泣いた小説です。移動の電車で読むときは、できるだけ泣かないようにしていますが、この本を読んでいるときは電車の中でも涙を流しながら、声だけなんとかこらえて読んでいました。電車の中で読まなければいいのに、続きが気になるから読んじゃって。とにかく今までで一番泣きました。

──そもそもこの作品を手に取ったのはどういった理由だったのでしょうか?

僕の母が小説好きで、「この小説良いよ」とおすすめをされて、ちょうど気になっていたので、読んでみようと思い、読みました。

──特に良いなと思ったのはどんなところでしたか?

人間って何かしら足りない部分や、コンプレックスに思っている部分があると思います。僕は、映画や小説でも、そういう人たちが誰かと出会って、お互いに自分にない部分を補い成長していくという物語に魅力を感じます。この本はまさにそういう物語だったので、すぐに好きになりました。

──ちなみに「52ヘルツのクジラたち」は映画化されましたが、映画はご覧になりましたか?

タイミングが合わなくて見れず、配信されるのを楽しみにしているところです。

──では次の1冊をお願いします。

次は「俺の残機を投下します」(著:山田悠介)。これは「実写化したら絶対に出たい!」と思った1冊です。主人公の分身のような存在が3人出てくるお話です。その3人は、見た目は同じだけど性格は違う、この役を演じるとしたら……どの役も絶対に難しいけど、その分楽しいだろうなと思っています。

──普段から「実写化するなら?」ということは、読みながらよく考えるのですか?

はい。想像するのが好きで。「自分が演じるなら」はもちろんですし、「このキャラクター、あの俳優さんが演じたら、、、」とかも考えたりします。

──キャスティングまで! ちなみに「俺の残機を投下します」を読もうと思ったのは何がきっかけだったのでしょうか?

これもタイトルと表紙。あ、ただこれは、タイトルと表紙に惹かれたあと、ちょっと調べてみたんです。そしたら、YouTubeにPVが上がっていて。そのPVに僕の好きなアーティストであるカンザキイオリさんの楽曲が使われていました。そこでさらに気になって映像を見てみたら、1分半くらいの映像で、その映像で泣いてしまって。「これは小説で読みたい」と思って読み始めました。

──なるほど。では次の作品をお願いします。

「ルビンの壺が割れた」と「人間標本」は、“とにかくヤバイ本”(笑)。まず「ルビンの壺が割れた」は、今まで読んだ本の中で一番奇妙でした。主な登場人物が2人いて、その2人のメールのやり取りで話が進んでいき、読んでいくうちに、人の印象がコロコロ変わっていく物語です。最初は「こっちの人物、ちょっと嫌だな」って思っていたのに、その1分後には一気に逆転して。かと思えばまた逆になってのようなことが繰り返される。今でも覚えているんですが、最後のページを読み終わった瞬間に、怖くて小説を手放しました。なんかもうこの本自体が気持ち悪く思えちゃって。それくらい衝撃でした。

──それは確かにヤバイ1冊ですね。

「人間標本」はあらすじを見ないで買ったので、昆虫の標本を題材にした話なのかなと思って読み始めました。そしたら、まさかのタイトル通りに人間を標本にするという話でした。小さい頃から昆虫の標本が好きで、ずっと「人間の標本を作りたい」という衝動が抑えきれないという主人公の話で。びっくりしましたし、「ルビンの壺が割れた」と同じように、読み終わったあとには、本自体に怖さを感じました。「どういう人生を送ったら、こんな物語が出てくるんだ!?」と思いました。

──ちなみに、次に読みたい本、もしくは狙っている本は?

「ラブカは静かに弓を持つ」(著:安壇美緒)。これは完全にタイトルと表紙の綺麗さに惹かれて買いました。あと、妹からオススメされた「アルジャーノンに花束を」も気になっていてます。どっちも早く読みたいです!

──読書には、現実逃避の手段としてや、学びを得る手段など、様々な役割がありますが、井内さんにとって読書はどういうものですか?

インプットのために読むというのが一番大きいですかね。僕は趣味で作詞作曲もやっていて、そのためにも、他の人が作っているものを頭の中にたくさん入れたい。そう思って読んでいることが多いと思います。普段は無意識に流してしまうような心情を言葉にしてくれているのが小説だと思っていて。ドラマや映画だと、それを役者さんが顔や表情、声で表現しますが、小説はそれを文字で表現している。それに触れられるというのは、読書をしている中でも特に好きなところです。

──もともとは学校の先生に「俳優を目指すなら読書をしましょう」と言われたことがきっかけで始めた読書。現在の井内さんの俳優業には、どのような影響を与えていると思いますか?

台本のセリフを見たときに、その裏側を考えるようになったのは読書のおかげかなと思います。「こう言っているけど、本当はどう思っているのだろう?」とか「ト書きにはこうあるけど、本心は?」とか、そういうことを考える癖がつきました。

──作詞作曲のヒントになっているというお話もありましたが、例えば小説を書いてみたいという願望は?

実は高校生のとき、作詞作曲の延長で小説も書いていたことがあるので、いつかやってみたいなと思っています。でもまずは、好きな作品の実写版に出たいですね。

──井内さんは、最初に「人間失格」を読んで余計に小説が嫌いになりそうになってしまったということでした。せっかくなので最後に、当時の井内さんのように普段あまり読書をしないという方にオススメの1冊を教えてください。

「最後の医者は桜を見上げて君を想う」(著:二宮敦人)。僕が小説にハマったきっかけとして「最初から最後まで面白い」と言いましたが、これはまさに。「先が気になってどんどん読みたくなる」という体験ができる1冊だと思うので、あまり小説を読まない方にもオススメです。あとは「52ヘルツのクジラたち」も。小説をあまり読まないという人の理由として、「文字だとあまり感情移入ができない」ということをたまに耳にするのですが、この作品はすごく心が動くので、きっとその考えをひっくり返してくれると思います。

文・取材=小林千絵
写真=町田千秋

プロフィール:井内悠陽(イウチ・ハルヒ)
2004年7月12日生まれ、京都府出身。
渡辺高等学院卒業の後、ワタナベエンターテインメントへ所属。
現在放送中のスーパー戦隊シリーズ「爆上戦隊ブンブンジャー」ブンレッド/範道大也役として連続ドラマ初出演、初主演を務める。

公式サイト: https://www.watanabepro.co.jp/mypage/90000037/
X : https://x.com/haruhi_iuchi712
Instagram:https://www.instagram.com/haruhi_iuchi712
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■衣装協力
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