演劇ユニット・言式 第二弾公演「或いは、ほら」上演記念、梅津瑞樹×橋本祥平インタビュー
梅津瑞樹と橋本祥平による演劇ユニット・言式の第二弾公演「或いは、ほら」が12月に上演される。「試み」の分解であり“常にやりたいことを試みる”という意味が込められた言式。このユニットについて、前作「解なし」について、そして新作「或いは、ほら」について、2人に話を聞いた。
すごく信頼できる相方だなと思いました(梅津)
──言式は2023年10月に第一弾作品として「解なし」を上演しました。言式での公演を経て改めて感じたお互いの魅力はどのようなものでしたか?
橋本 そもそも言式を結成する前からすごく魅力的な人だというのは重々承知していたんですが、言式を結成して改めて、瑞樹くんの持っている感性が自分のツボとめちゃくちゃ合うなと感じました。瑞樹くんはとても自分の世界観がある方で、人によってはどう絡んでいいかわからないと思うかもしれない。でも僕は前からずっと居心地の良い人だなと思っていて。言式を結成して、その理由がわかりました。
梅津 今日、取材の前に「或いは、ほら」の台本について、「ここのシーン、どう思う? 削ったほうがいいかな?」とか「ここ変えたほうがいいかな?」みたいな話をしたんです。そしたら「面白いと思ったけどな。読んでいてニヤニヤした」って話をしてくれたんです。前作のときから、そういうことが何度もあって。そのたびに「この人と言式を立ち上げてよかったな」とすごく思いますね。こんなに心強いことはない。だから逆に反対意見が欲しい……。
橋本 あはは(笑)。
──今のところ「それは違うんじゃない?」という意見の食い違いはない?
梅津 あんまりないかな。どちらかというと、僕がときどきひよって「これって面白いかな?」と聞いて、「いや、面白いよ! このままでいこう!」という趣旨の意見を言ってくれるので、むしろ僕が「そっか」って言うという(笑)。
橋本 いや、別に全肯定するつもりはないんですけど、今のところせざるを得ないというものを持ってきてくれているので、本当に反対する必要がないんですよ。ただ言式の理想としては、この先も長く続けたいと思っているし、定期的に公演を打ちたいと思っているので、この先ではぶつかることもあるかもしれないですね。
梅津 付き合った恋人が、今のところ自分にとって最高だけど、見えていないだけで、何が起こるかわからない、みたいなドキドキに似ているかもしれない(笑)。そういうのを早く経験したい。そのほうが安心なので。まぁないに越したことはないんだけど。
橋本 そういう点では、今回2作目ですけど、まだワクワクしているんだと思います。瑞樹くんは自分が書いたものを第三者が見てどう思うかという率直な意見を知りたいんだと思うんですけど。僕も言式というものに変なフィルターがかかっちゃっているのかもしれないですね、「全部面白い」という。でもその直感は正しいと思っています。
梅津 そもそも台本の原案は2人で「これ面白いよね!」って話し合ったもの。それを僕がただ書き換えるだけなので、そりゃ面白いよねっていう。
橋本 そりゃそうだよね(笑)。でも膨らませたのは瑞樹くんなので。一緒にやっていて思ったのは、俳優・梅津瑞樹はもちろん好きだけど、“この人、脚本家としても売れねえかな”ということ。
梅津 ありがとうございます。
橋本 本当にあると思う。
梅津 脚本家として売れる未来が?
橋本 うん、見えた。売れる未来が。
──脚本家としての魅力を、特にどのような点で感じましたか?
橋本 言式の作品は、前作も今作もオムニバス作品なんです。だから、オムニバスの1本をどう膨らませて、どう着地させるのかというところで、「ここに行くのね! さすがです」という感動があるんですよね。あとは、彼の書く文章が本当に好きで。ちょいちょい言葉選びで笑わせるところもあって。いや〜、さすがですね。俺がもし思いついたら「俺、天才だな」って思っちゃうと思う(笑)。前作の中に「あ」だけで芝居をする作品があったんですけど、それをやってみて、究極、言葉っていらないんだなと思いました。そういうことを知ることができるのも言式だなと思います。
梅津 そういえば……。この間、写真集の撮影でベトナムに行ったんですね。そのときに、湖のちょっとでっぱったところで撮ることになったので、へりの先まで進んで。そこでスタッフを笑わせようと思って、水の中に落ちそうになるという芝居をやったら、周りにいた外国人が「おおお!」って面白がってくれて。それがすごくうれしかったんです。言葉が通じなくても、芝居はいろんなことを起こすことができるんだなと、如実に感じた出来事でした。味をしめて、何回かやっちゃいましたもん(笑)。
── 一緒にやったことで新たに見えた俳優としての魅力はありますか?
梅津 瞬発力がめちゃくちゃ高いなと思いました。変なプライドを持っていたり、自分が決めたことしかやらない人だったりしたら、こんなにうまくはいかない。まぁそういう人となりもわかった上で言式を結成したんですが、改めて「解なし」の稽古で思いました。僕もことさら演出していたというわけではないんですが、「例えばもっとこうしたらどうなるんだろうか?」って提案させてもらうと、次の瞬間にはもう僕の理想のものが出てくるんですよ。すごく信頼できる相方だなと思いました。
橋本 梅津先生について僕が語るなんてそんなのおこがましくてできないですが、相手役として一緒に芝居ができるのがすごく幸せです。今回に限らずですが、瑞樹くんはその場で起きたアクションに対してどう返すかというキャッチボールが楽しくできる方。一緒に芝居をしていてすごく楽しいです。
梅津 ただ……言式で新たな祥平の一面を出せているかというのはちょっと悩ましい話で。というのも、オムニバス形式だとどうしても難しいんですよね。長編だったら長い時間をかけて一人のキャラクターの心情を掘り下げていく過程で、たとえば役者に負荷がかかったり、今までその人のなかになかった感情を探したりすることが構築しやすいんですが、オムニバスだとそういうものに辿り着きづらい。でも橋本祥平という俳優を知っているからこそ、まだ彼の中にない何かをお客さんにも見せたいし、祥平にとっても、言式が俳優としてそういう場になったらそんなにうれしいことはない。だから、今度は長編にも挑戦してみたいねという話をしています。
占い師さんに「この2人相性いいですね」って言われると思う(橋本)
──そもそも、お二人で言式という演劇ユニットを組むことになったのはどういった経緯だったのでしょうか?
梅津 日本テレビの「ろくにんよれば町内会」という番組に2人とも出ていて。その中で、一人一人がエチュードを披露することがあったんです。そのエチュードはお題がギリギリに送られてくるので僕も直前まで頭を悩ませていたんですが、日を追うごとに、祥平のエチュードがどんどん開放的になっていって(笑)。
橋本 あはは(笑)。
梅津 見ていてすごく面白かったんです。そのエチュードは自分で考えてきたものなので、彼が面白いと思っているものが反映されているわけで。そう考えたら、価値観がすごく合うなと思ったんです。
橋本 提示したもののジャンルは違うんですけど、どこかの思考が似ているんでしょうね。お互い偶然同じ設定でやっていた日があって。
梅津 あれは恐ろしかったよね(笑)。
橋本 うん(笑)。でもそこで、やっぱり根底にある何かが一緒なんだろうなって僕も思いました。言式の話は瑞樹くんから直接話してもらったんですけど、話を聞いて、好きなことができる空間になりそうだなと思いました。
──そもそも梅津さんとしては、もともと演劇ユニットをやりたかったのでしょうか? それとも橋本さんと何かやってみたいと思って始めることにした?
梅津 僕は、一人芝居をコンスタントにやっているんですが、そうやって生涯ソロでやっていくんだろうなと思っていたんですよ、彼がそういう人だと知るまでは。だから祥平のそういう一面を見たときに、初めて誰かと一緒にずっとやりたいと思えた。先日、末満(健一)さんに、演出家の先輩として話を聞いてもらっていたんですが、そのときに末満さんが、「ここまで来るのにすごく時間がかかったけど、何に一番時間がかかるって、自分が一緒にやりたいと思う人とやれるようになること。そういう人たちを見つけること」と言っていて。だから祥平に出会えて本当に良かったなって。
橋本 こちらこそです。僕、占いの番組を見るのが好きなんですけど、その番組の中で占い師さんがよくゲストの方に「2人、めっちゃ相性いいですね」って言うんですよ。たぶん僕らもそうだと思います。
──お二人で占ってもらったことは……?
梅津・橋本 ないですね(笑)。
──そんな相性の良いお二人による言式ですが、言式として作る作品にコンセプトはあるのでしょうか?
橋本 縛りはないですよね。
梅津 うん。“試す”ということに集約されているかなと。今はオムニバスをやっていますけど、さっき言ったように、次は長編をやる可能性もあるし、もしかしたら、くすりとも笑いが来ないような……いや、くすりくらいは欲しいか(笑)。でも笑いのエッセンスの少ないものを作る可能性もあるし。ただ1時間半という公演時間は結構重要視しているかも。僕が、1時間半がちょうどいいなと思っているので。
──くすりと笑えるとか、1時間半といった、ご自身たちの好きな形のものをやるということですね。
梅津 そうですね。
──脚本の原案はお二人で話し合って作るとおっしゃっていましたが、どのように作り始めるのでしょうか?
梅津 祥平が「そろそろ行きます?」って連絡をくれて集まることが多いですね。
橋本 雑談から始まることもあれば、「こういうのどう?」ってプレゼンすることもあるし。どう着地させるかということよりも、まずは面白いネタをお互いに話して、そこからまとめていくという感じでしたね、これまでは。でもその打ち合わせがすごく楽しいんですよ。最初は本当に最近あった面白い話とか、そういうたわいもない話をしていて、気がつけば言式の話になっている。だから日々の中で面白いことがあったらメモを取るようになったんです。そうやって周りを見て過ごせるようになったのは言式のおかげだなと思います。
──たとえば他の作品を見て研究するなどは?
梅津 他の作品を見て「今、ここでこういう作品を上演しているから、自分たちは避けよう」とかはもちろん考えます。あとは、観に行った作品で、「こうやると、こう見えるんだな」っていうことは考えたりしますね。「これはやめよう」というマイナスなことに気づいたり。
──なるほど。ただただ自分たちの好きなことをするということだけでなく、作品として成り立つようにということも考えられているんですね。当たり前なことかもしれないですが。
梅津 人に関わってもらっている以上はちゃんと成功させないといけないし、中途半端なものは見せたくないので。それと前作から気になっていたことがあって……“若い役者2人がイベントがてら何かやっている”と思われること。それがすごく癪で。僕らとしてはちゃんと演劇をやっているつもりなので、その印象は払拭したい。前作を見た人はわかってくれているだろうけど。特に前作は言式の第一弾。何の保証もない中で信頼して観に来てくれた人が、“ちゃんと演劇をやっていた”“その演劇が面白かった”と胸を張って周りの人に言えるものを用意するということはすごく考えました。今回のチケットもありがたいことに、なかなかの勢いで売れたのですが、前回観てくれた方はもちろん、今回初めて観る方も信頼に足るものだと思って買ってくれたのだと思うので、皆さんに満遍なく楽しんでもらえるようにしたいなと思っています。
一番好きな映画、何?
──先ほどから“面白いと思うツボが同じ”“感性が似ている”という発言がたびたび出ていましたが、お二人が話している中で気づいた、同じ好きなものや共通点みたいなものはありますか?
梅津 意外とないよね。祥平は漫画がすごく好きだけど、僕はそこまで読まないし。ゲームも僕はそんなにやらないし。確かに共通の好きなものはないかも。一番好きな映画、何?
橋本 「タイタニック」(1997年)かな。
梅津 意外! 何で?
橋本 (レオナルド・)ディカプリオ、カッコいいなって思って(笑)。
梅津 それで言ったら、僕も子供の頃、ディカプリオ大好きで。習っていたバイオリンの先生に「ディカプリオが好き」って言ったら、カレンダーをもらったことがある(笑)。
橋本 俺は一時期、美容院にディカプリオの写真を持っていって「これにしてください」って言っていました。全然ならないからやめたけど(笑)。瑞樹くんの一番好きな映画は?
梅津 「未来世紀ブラジル」(1985年)とよく言ってる。近未来のディストピアの話で、その世界から脱出しようとする物語。
橋本 あー、たぶん合わないですね。
梅津 「合わないですね」はひどいな(笑)。
橋本 俺、どっちかといったら「ハリー・ポッター」のほうが好きだから。
梅津 俺も「ハリー・ポッター」好きだよ。
橋本 本当!?(笑)
梅津 うん、でも「ハリー・ポッター」を好きな映画として挙げるんだったら、先に「ロード・オブ・ザ・リング」を挙げるかな。
橋本 あー、なるほどね。
梅津 あとは「手紙は憶えている」(2015年)も好きだし、「ボス・ベイビー」(2017年)も好き。
橋本 「ボス・ベイビー」は俺も好き。
──感性は似ているのに、好きなものは絶妙に違うというお二人だからこそ、演劇ユニットを組むことで面白さが倍増するのかもしれないですね。そんな言式の第2弾「或いは、ほら」は、どのような作品になりそうですか?
梅津 どういう話だと思う?
橋本 宇宙にはロマンがあるなと。
梅津 なるほどね。これが「或いは、ほら」でございます(笑)。
橋本 あはは(笑)。
梅津 俳優・橋本祥平の達者さがよく感じられる作品になると思います。
橋本 そんなん、始まる前から言われちゃうと困ります!(笑) でも本当に脚本通りできたらめちゃくちゃ面白いと思うので、しっかり作っていきたいと思います。
梅津 今作は、実家から出られない橋本祥平という男が、数々のバイトをして、そのバイト先でいろんな人と出会い、日々成長していく姿を捉えたヒューマンドラマとなっておりますので、お楽しみに!
橋本 (フライヤーのタイトルを指さして)これです(笑)。
──「或いは、ほら」ということですね(笑)。とにかく気になる方は劇場で確かめてくださいということで。
梅津・橋本 はい、よろしくお願いします!
◆公演情報
言式「或いは、ほら」
◆公演日程・劇場
2024年12月19日(木)〜12月29日(日)
I’M A SHOW
◆脚本・演出
梅津瑞樹
◆出演
梅津瑞樹 橋本祥平
◆公式サイト
https://genshiki.com/
◆公式X
@genshiki_info (https://x.com/genshiki_info )
◆公式ハッシュタグ
#ゲンシキ
◆主催
言式製作委員会
文・取材=小林千絵
写真=Takahiro Kikuchi
スタイリスト=MASAYA(PLY)
ヘアメイク=北崎実莉、櫛引桃奈
<衣装>
★梅津瑞樹
•ジャケット ¥176,000
•パンツ ¥111,100
以上2点ともに(LA CORRUPTION)
その他スタイリスト私物
★橋本祥平
•コート ¥115,500 (LA CORRUPTION)
•ロングシャツ ¥36,300
•パンツ ¥44,000
以上2点ともに(RYUGAKAWABE)
その他スタイリスト私物