さまざまな俳優に、自身の「好きなコト」を聞く本企画。第二回は、俳優・東啓介さんと「カメラ」。早朝の恵比寿、訪れたのは1940年にオープンした老舗カメラ専門店「大沢カメラ」です。

入店してすぐ、ガラスケースのカメラをじっくり見始めた東さん。どうやら早速、気になるカメラを見つけたようです。

初めてカメラを買った高校生の思い出や、俳優として撮る/撮られるを往復するご自身の考えについて、ゆっくりお話を伺いました。

――今日はよろしくお願いします。早速、カメラを見てましたね。

最近、古いデジカメが流行ってるじゃないですか。ちょうど良さそうのがあって。欲しいなと思っていたので、取材後に買おうかなと。

――買い物する気マンマンで嬉しいです(笑)。東さんは、いつからカメラを始めたんですか?

高校3年生ぐらいですかね。どの写真を見たのか、何に載っていたのか…思い出せないんですが「肉眼で見てるのと、カメラで撮影されてるものってこんなにも違うんだ」と衝撃を受けて。自分でも撮れないかな、と興味が湧いたんです。

あと当時は、初めて舞台に立ったときでもあって。ビジュアル撮影のときに「これ、なにを使って撮影しているんだろう?」と思っていましたし。

――高校生のとき!早かったんですね。最初のカメラはどうやって決めたんですか?

最初のカメラは予算で決めました、予算は8万くらい。自分のお給料から購入したので、10代で一番高い買い物だったかもしれません。

カメラを選ぶ基準はいろいろあるけれど、SNSもYouTubeも今ほどじゃなかったから、初心者が調べる方法もありませんでした。センサーサイズが色々あるとか、機能がどうとか…なにせ初めてすぎて、全然わかんなかったんですよ。漠然と、持ち運びできたほうがいいなって。

探した結果、当時最新だったOLYMPUSのOM-DシリーズからE-M10を買いました。「小さいけれど機能が優れてて、画質が綺麗なんです」と家電量販店の店員さんに教えてもらって。

――初めての撮影、上手に撮れましたか?

「めっちゃ綺麗に撮れた!」というときと、「なぜできないんだろう?」みたいなときがあったかな。そこから「このつまみはなんだ?」「この数字やボタンはなんだ?」と調べる意欲みたいなのが湧いてきましたね。

「これいいな」と古いデジカメをお試し撮影中の東さん

――初めはどんなモチーフを撮っていたんですか?

夕日と花が撮りたくて。花はうまく撮れたんですよ。でも夕日はめっちゃ白飛びする。今ならどう調整すればいいかすぐ判断できるけど、当時は「何ができてないんだ?」と意味も分からずで。

オートモードをやめてマニュアル撮影にしようとしても、「画面上の数字を大きくすると明るくなるけど…どういう仕組みなんだ…?」みたいな。試しにオートに戻して、夜景モードで撮ってみたり。

――とにかく手探りでカメラを触る高校生の東さんが目に浮かびます。カメラを始めて10年ほど経つと思いますが、上達は感じますか?

感じます。カメラの機種ごとに違いがあって、それぞれが魅力だと思えるようになりました。僕がずっと使ってるFUJIFILMはマニュアル撮影が主流なんですが、自分で調整する感じが気に入っていたり。

自分なりに「こういう数値・設定で撮ってみよう」と考えるのも、知ってるからこその醍醐味というか。こうやって楽しめてるのは、上達できたからかなと思いますね。

――ちなみに、いまカメラって何台ぐらい持ってるんですか?

父親から貰ったフィルムカメラが、4台くらいあるのかな。二眼カメラも持ってます。けどまだ触れてなくて、ジャンク品なのか、稼働するのか…。あとは、最新のフィルムカメラが1台と、一眼レフが二つ。デジカメも持ってますね。

――すごい台数!それぞれの機種ごとの面白さが分かるからこそ、揃えたくなるんですね。

そうですね(笑)。レンズは沼にハマりそうだから、まだ踏みとどまってるけど…新しいものに手を出したくなってしまうんです。カメラを通して、ガジェットもすごい好きになっちゃって。

初代GoProが発売されたときも、すぐ買いましたし。歌うこともあるので、マイクごとの違いを試すために種類を揃えたり。各メーカーから出てるイヤホンも各性能を知りたくて、つい買っちゃったりするんですよね…。

――ガジェット沼だ…!どういう風に情報収集してるんですか?

YouTubeでわかりやすく解説してくださる方を見たり。たとえば、カメラの新しい機種についての解説動画を見て「なるほど、こういう特徴なんだ」と知識を得たら、Instagramで機種名のハッシュタグを検索します。そうすると、同じ機種で撮影された作例がたくさん見れるんですよね。

ただ落とし穴があって、ガッツリ編集されてる画像はあんまり参考にならない。そういうものを見てると、撮ったあとにPhotoshopでも編集してみたいなあという気持ちも湧いてきます。(カメラマンさんに対して)でも、編集って大変ですよね?

――(それに対してカメラマンさんが)いや、多分はまっちゃうと思いますよ(笑)。

まじすか。僕、スマートフォン版Lightroomは触ったことあるんですけど…あ、同じような感じでできるんですね。新しい知識を得ました、ワンアップだ。やってみます。

――すごい、新しいステップに!できることがどんどん広がりますね。

――以前、ウェブメディアに掲載されていた写真を拝見しました。バケツが逆さになって棒に刺さってる写真、おもしろかったです。ご自身は、普段どんなモチーフを撮影することが多いですか。

高校生当時とあんまり変わってないのは、風景が多いことですね。人物を撮影することもあるんですけど、ものを撮るほうが好きで。

僕も気に入ってます、あの写真。普通に見たら、干してんだなとか、とりあえず置いてんだなって思うじゃないですか。でも、写真で撮ったら「なんかおもしろい」になるんですよね。そういうものを見つけるのが好きで。以前に三軒茶屋を歩いてたら、赤いコカ・コーラのベンチの上にジャガイモが干してあったんです。「写真で撮ったら絶対おもしろいな…」とシャッターを切ったら、案の定めっちゃいい。

このお店へ向かう途中も、どんどんきれいに整備されていく恵比寿駅前で、唯一宝くじ売り場だけは変わらずあって。新しいものと変わらないものが同居してる空気が、おもしろいなと思ってました。普段歩いてる時も「この風景、こう切り取ったら面白いじゃん」みたいに頭が切り替わるんですよ。

――普段から、撮影したらおもしろそうなモチーフを探してるんだ。

今と昔が融合していって、 残ってるものと新しくなっていくもの、みたいな移り変わりを見るのがすごく好きなのかもしれないです。しかも今はね、画質がどんどん上がっているから、昔のものがめっちゃ綺麗に写る。そういう画像の表れ方も、なんか変で面白いなって。

――カメラが大好きな一方で、俳優として撮影される立場も多いと思います。撮る側/撮られる側どちらも経験するのって、どうですか?

職業だから「自分が撮影されてるの変だな」とはならないんですけど、自分も撮影するからこそ、カメラを意識し過ぎないようにしています。

以前、友人のブロマイドを撮影する機会があって。僕がカメラを構えたら、普段の友人の表情じゃなくなったんです。撮られる顔を作っていたので「…うん、それじゃない」って突っ込んじゃって(笑)。俳優としてはバッチリなんだけど、僕と喋ってるときの表情はその顔じゃない。誰にでも見せてる顔じゃないからこそ、それを写真で収めたいと思うんですよね。

――どちらの考えも分かるようになったんですね。

そうですね。ドラマや映画の撮影のときも、カメラの知識が活きています。カメラマンさんがアシスタントさんに「50ミリ持ってきて」や「85ミリ持ってきて」と指示しているのが、レンズのことだって分かる。それで「次は寄りで撮ってるんだな」とか「このシーンは引いた画角になるんだ」と見当がついたりとか。

あと、カメラが好きだからこそ「どういう構図で撮影しているんだろう」と関心が湧いたり、「映像だとこうするんだ、なるほど」と知識が広がって楽しいですね。

勉強は教えられるだけじゃなくて、自分が教えることでより理解が深まるっていうけれど、僕の場合は撮ること/撮られること両方経験していることが、すごくためになってるなと思います。

――これから、撮影してみたいものや、やってみたいことはありますか?

ひとつは、まだヨーロッパに行ったことがなくて。それこそ、昔の建造物ばかりの土地じゃないですか。画像検索すれば見れるけど、そうじゃなくて自分で撮ったものを残しておきたいというか。自分が歩いて写真に残す体験をしておきたいですね。

あと、8×10(エイトバイテン)で撮影してみたい。いわゆる昔の映画に出てくる、蛇腹になった大きなカメラで自分を撮りたいですね。大判カメラなんですけど、フィルムがめちゃめちゃデカいから、解像度が高いんですよ。その分、一枚ずつフィルムを交換しなくちゃいけないので、セッティングは全部お任せして、セルフシャッターでバシッと一枚だけ撮影する(笑)。それを親に送りたいです。

――これからやりたいこと、尽きませんね。

画家さんとコラボしてみたいな、という夢もあるんですよ。僕が撮った写真と絵を重ねたら、アーティスティックなものになるんじゃないかなって…一体いつになるんでしょって感じですけど。

――終わりのない、先の長い趣味ですから。きっと実現する気がします。

そうですよね、まだまだ欲しいカメラもあるし。とりあえず、この取材が終わったらデジカメをもう一回見に行こうと思います。新しいカメラを買うごとに更新される連載とか、どこかでできたらいいな。

プロフィール:東啓介(ひがし・けいすけ)
1995年生まれ、東京都出身。2013年にミュージカル『テニスの王子様』2ndシーズンでデビュー。
190cmという長身と伸びやかな歌唱力を活かし、近年ではミュージカル・舞台のみならず、その演技力が評価され映像作品にも多数出演している。
近年の出演作に、ミュージカル『ラグタイム』『ザ・ビューティフル・ゲーム』『ジャージー・ボーイズ』、ドラマ『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』『ファイトソング』などがある。
4月にはミュージカル『VIOLET』にフリック役で出演予定。
公式サイト: https://www.watanabepro.co.jp/mypage/10000062/
X: https://twitter.com/keisuke_higashi
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【取材協力】
大沢カメラ
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