実はラブコメも大好きな映画ライター・ISOによる、恋愛娯楽映画の観測コラム。第2回は、ラブコメみたいなドキュメンタリー映画をご紹介。カジュアルな関係からの突然のリゾート同棲、「絶対に恋人にはならない」と思う二人、南の島でのサバイバル…フィクションみたいな状況が、コロナ禍で本当に起きていたようで…

「映画の恋愛なんてお伽噺」。メタ・ラブコメの金字塔『ロマンティックじゃない?』の主人公ナタリー(レベル・ウィルソン)は幼い頃、母親にそう言われラブコメが嫌いになってしまいます。子供にそんなことを言うなんてひどい話ですが、その主張にも一理あります。

確かにラブコメ映画を観てると「こんな恋愛あるかい!」と突っ込みたくなるものばかり。手違いで突然始まる共同生活、サバイバルで深まる関係、弱音を打ち明け合うムーディなビーチ、なぜか突如始まるセックス、絶望的なハプニングを経て急接近…などなど。

でもラブコメファンからすれば、そんな自分とは縁遠い奇跡的な恋愛をニヤニヤ楽しむのも醍醐味のひとつですよね。皆さんそれは承知の上で作品を楽しんでいることかと思います。そう、現実にはラブコメ映画みたいな恋愛なんて起こるわけ……

あります!!!!!

実は現実にもあったんです。そこらのラブコメに勝るとも劣らない奇妙でヘンテコなロマンスが。それを捉えたドキュメンタリーがNetflixで配信中の映画『ロンゲスト・デート 〜バケーションはどこまでも〜』(2023)。原題の『Longest Third Date』が表す通り、途方もなく長い3度目のデートを描く作品です。どういう話かというと……

カジュアルな関係を求めるフリーの男性マットは、マッチングアプリでカーニという女性とマッチします。ニューヨークに住む2人は早速インド料理屋で初デート。すぐに意気投合し、最高の夜を過ごした彼らは2度目のデートを取り付けます。次のデート場所は斧投げバー。なぜか親友を連れてきたマットですが、今回のデートも大成功!最後にはキスをしてお別れします。そして3度目のデートで急展開。航空券が大安売りされていると知った2人は、思い切って数日間のコスタリカ旅行に行くことを決めます。

美しい自然に囲まれたコスタリカのホテルで休暇を楽しむ2人ですが、突然帰りの飛行機が欠航になったという報せを受けます。実は2人が旅行に出たのはパンデミック初期でロックダウンになる直前だったのです。帰国の目処がつかなくなった2人は、お互いのことをよく知らないまま帰国日未定の同居生活を始めることに……。

気軽な関係を求めているマットと、過去に苦い恋愛を経験してきたカーニ。気は合うけれど恋人は求めてない二人に、青天の霹靂のように無期限の同居生活が訪れます。本作はそんな二人の揺れ動く関係を、当時の映像と彼らや友人たちのインタビューと共に振り返る、世にも珍しいラブコメ・ドキュメンタリーです。

コスタリカ旅行の様子をマットは飛行機に乗る瞬間から延々と撮影しています。最初から映画になることが分かっていたかのような映像の豊富さに驚きますが、理由は単純。マットはインフルエンサーを目指していて、旅行中に撮れた面白動画でバズろうとしていたのです。周りにいたらちょっとキツいタイプかも…。彼は自らのプロモーションビデオも動画サイトにアップしており、インタビューを受ける友人たちにも若干小馬鹿にされています。

一方のカーニはインフルエンサーのような人に苦手意識があり、ずっと撮影してくるマットに引いている模様…。「インフルエンサーなの?」という質問にマットが「いや、まだだ」と答える時のカーニのなんとも言えない顔に思わず笑ってしまいます。

時に気まずくなる瞬間もありつつも、数日間は「最高の休暇」を楽しんでいた二人。ですが新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るいだし、次第に雲行きが怪しくなります。コスタリカでもビーチやジムが封鎖され、ニュースでは感染拡大の渦中にあるニューヨークの様子が。マットとカーニは家族のそばにいれない無力感に襲われますが、未だ心を開いていない彼らは互いに弱みを見せようとしません。

やがて滞在していたホテルを追い出されてしまい、彼らは仕方なく空き家を借りて暮らすことに。外出もできない状況で、打ち解けあってない相手と24時間一緒の生活はつらそう…と思いきや、一緒に手品やタンゴのオンラインレッスンを受けたりと、日々屋内デートを楽しむ二人。ネットがあるとはいえ、その適応能力の高さに驚きます。次第に心を開き始めた両者は、当たり前のように夜活も盛んに。マットはインタビューで「グレイトなセックスをたくさんしたよ」と満面の笑みで語り、カーニも「こんな状況じゃお酒を飲むかセックスするしかない」とぶち撒けます。その辺りはボカすのかなと思いきや、Neflixという世界級デカメディアで性生活をオープンにする辺り国民性の違いを感じますね。

そうやって過ごしていくうちに二人の間には恋が芽生えていく…というのがロマコメの定石ですが現実ではそう簡単にいきません。カーニは同居生活の中で以前経験したひどい恋愛のトラウマがよみがえり、一方のマットも良い関係だけど真剣な交際には発展しないと確信します。やがて再予約していた帰国便もキャンセルとなり、精神的にも疲弊して真っ昼間から酒浸りになる悪循環に陥っていきます。そんな中でもマットは動画の撮影をやめません。そのおかげでこの映画があるのは理解しつつも、筆者なら「いい加減にせんか!」とブチギレていると思います。

彼らはそんな状況を打破するため、滞在していた空き家を離れ、コスタリカ各地の宿めぐりに出発。訪れたのはツリーハウスやジャングルのキャンプスポットなど刺激的な場所ばかり。そうして彼らの旅行はいつしか未知なる旅路をゆく大冒険に。再び生活に彩りを取り戻した2人は次第に心の内をさらけ出す間柄へと変化していきます。しかし彼らの「恋人関係にはならないぞ」という決意は想像以上に固い。『フレンズ』のロスとレイチェルのような、または『ブリジット・ジョーンズの日記』のブリジットとマークのような付かず離れずの悶々とする関係性に、いつしか本当にラブコメ映画を観ているかのような気持ちを覚えていきます。

自然豊かなコスタリカでの日常は一見とても魅力的ですが、当たり前ながら実際は良いことばかりではありません。住んでる家に巨大イグアナやさまざまな昆虫が侵入・大量発生したり、現地のちょっと怪しい避妊薬を飲んでいたカーニの生理が来なくなったり(マットが避妊具をつけろよ!怒)、レンタカーが池に落水してしまったり…結構洒落にならない出来事も次々と発生。おまけにマットがこの状況をネットにアップしたところ、それがメディアに取り上げられ二人は一躍有名人に。カーニはよく知らない男とコスタリカにいるということを厳格な父親に秘密にしていたため、思わぬ形で窮地に立たされるのでした。

そんな大小さまざまなトラブルをマットとカーニはどのように乗り越えていったのでしょうか。そして「絶対恋愛はしない」と頑なに決め込んだ二人の恋の行方は…?それは観てのお楽しみ。ドキュメンタリーであり、ラブコメであり、冒険映画でもあるワクワクとトキメキが詰まった「事実は小説よりも奇なり」な一作。75分でサクッと観られるところも嬉しいポイントです。

ラブコメ映画のような恋愛なんて自分には無縁…と思っているそこのアナタ。もしかすると明日にでもこんな奇妙で愉快なロマンスイベントが発生するかもしれませんよ。ちなみに僕はリゾートで突然よく知らない人と同居生活が始まるの………ぜったいイヤです!!!!!!

著者プロフィール:ISO
1988年、奈良生まれのフリーライター。劇場プログラムや月刊MOE、CINRA、映画.comをはじめ様々なメディアで映画評、解説、インタビューを担当するほか、音楽作品のレビューや旅行関係のエッセイなどジャンルレスに執筆。
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