【あの人の好きなコト】春とヒコーキ・土岡哲朗と映画。誰に見せることなく書き溜めた、1200本の映画レビュー
さまざまな著名人に、自身の「好きなコト」を聞く本企画。第四回は、お笑いコンビ「春とヒコーキ」の土岡哲朗さんと「映画」。撮影のためにたくさんの映画グッズを持参してくれた土岡さん。13年間誰にも見せずに描き続けてきた映画レビュー1200本についてや、幼少期の映画との出会いについてお話いただきました。
大学時代から書き溜め、誰にも見せずにきた1200本の映画レビュー
ーーYoutubeチャンネル『映画の話をドガチャガ』で、エクセルに書き溜めたレビューをfilmarksに書き写しているのを拝見しました。
まだまだ全部は書き写せてないんですけどね…けっこう、そのまま公表するにはキツいこととかも書いてたりするので(笑)。1200本をコツコツ書き写しながら、新しく見た映画のレビューも増やしつつ更新してます。
ーー1200本も!映画の感想を記録し始めたきっかけは?
大学進学ですかね。映画自体は中学くらいから好きだったので、一人暮らしで自分で時間の使い方を決められるなら「とにかく映画を見ることにたくさん時間使おう」と決めたんです。あとせっかくなら、何本観たのかも数えておきたくて。
同じくらいのタイミングで、入学してすぐに授業でExcelを習いまして。これなら、観た映画の日付・タイトル・出演者の名前を入れて表にできるぞと。そこから全部Excelに書くようになりました。初めはメモ程度だったんですけど、せっかくならちゃんと文章にしようと思って、感想も書くようになって。
ーー記録をつけ始めて、今年で何年目なんですか?
18歳の時からやっているので、今年で14年目ですね。ただ、去年までの13年間は誰にも見せてなくて。
ーーえ!?
タイタンに入ってから「映画が好きならフィルマークスやってた方がアピールになるよ」とマネージャーさんに言われたので「それなら、エクセルに13年間書き溜めたやつあるんで、コピペしていきますね」と返したら驚かれて。
ーー(マネージャーさん)びっくりしましたね。誰にも見せてないって言うので…(笑)。
そっか、人に見せるっていう可能性もあったんだ、なるほどなと。誰かに伝えたいとかじゃなく、映画を見て、感想を整理して書くまでがサイクルになっていたので。
お父さんから受け継がれた、スター・ウォーズとの出会い
ーー中学から映画が好きだったとおっしゃってましたが、きっかけの作品は何でしたか。
自覚したのは、今でもすべてにおいて一番好きな『スター・ウォーズ』だと思います。ちょうど小学生〜中学生の時期に『スター・ウォーズ エピソードⅠ/ファントム・メナス』から三作品が公開されたんですよ。父の学生時代に『エピソードⅣ/新たなる希望』が公開されたのもあって、父に連れられて家族で観に行きました。
ーー土岡さんは1992年生まれだから、ちょうど小学校に上がったくらいにエピソードⅠが公開されたんですね。
そうですね、1999年公開かな。その公開前に金曜ロードショーで『エピソードⅣ』を観ながら父親が「CMに出てくる小さい子が、このダースベイダーになるんだ」って説明してくれたんです。
小学生の僕的には、時系列がぐちゃぐちゃでよく分からないし、結末が決まっているのが不思議で。あと多分、父親が説明してくれるのがかっこよかったのかも。そういう印象が、興味を持つ最初のきっかけのような気がします。
とはいえ『エピソードⅠ』から『エピソードⅡ』への関心度は他の映画と同じぐらい。でも『エピソードⅢ』が公開されるまでのあいだに、「ちゃんとストーリーを把握したいな」と思うようになって。ネットで色々調べたり、それが嬉しかったのか父親がDVDを買ってきてくれて。何度も観返しながら、新作の公開に備えました。今は映画というか、もはや全ての中で一番スター・ウォーズが好きですね。
ーースター・ウォーズへの興味が映画自体への入口になった?
そうですね。中学に上がると、急に音楽とか聴くようになるじゃないですか。僕は自然と映画とお笑いに手が伸びて。当時、みんながTSUTAYAでORANGERANGEのCD借りてたなか、映画のDVDを借りたり、映画雑誌「SCREEN」か「ロードショー」のどっちかを毎月買ってました。中学の友達も映画好きっていうのを知ってくれてて、新作映画の話を僕に聞いてくれたり、『ダークナイト』が公開前なのを雑誌で読んで「バットマンの映画やるみたいだよ」とみんなに話して、なんで知ってんの!て驚かれたり。
ーー今、お友達の話が出てきて気になったのが……高校生のときは友達が一人もいなかった、とよく話されてますよね。
中学の時は、地味なグループというか、いわゆるイケてない側ではあるんですけど、楽しく映画とお笑いの話をしたり、友達と一緒に映画観に行ったりもしてました。
地元・宇都宮にあった映画館の記憶
ーー中学時代に友達と映画に行けたってことは、わりと近所に映画館があったんですか?
地元が宇都宮なんですけど、小学校高学年ぐらいのタイミングで市内にシネコンができて。中学のときはそこへ行ってました。あと、宇都宮駅前の大通りにちっちゃい映画館が3つぐらいあったんですよ。宇都宮第一東宝という映画館と、ヒカリ座と…もう一つはなんだっけな。
ーー生活圏内に三つも映画館が。
中学ぐらいで潰れちゃったけど、結構記憶に残ってます。よく覚えてるのは、ジブリ映画『もののけ姫』を母親と観に行ったら、すでにアシタカの腕がグチョグチョになってて、それがなんでか分かんない状態で観始めたこと。入れ替えがないので、エンドロールを跨いで同じシーンまで観ました。
あと、同じくジブリの『千と千尋の神隠し』はすごい人気で、外まで列ができてて。満席でも劇場に入れて、立ち見の人がいたり、僕は階段に座って観てた思い出があります。今だと消防法でダメだと思うんですけど(笑)。
ーーシネコンじゃなかなかない、まちの映画館のいい思い出ですね。
僕、小さい頃に合気道を習わされてたんですけど、教室への道中で映画館の前を通るんですよ。そのたびに「合気道なんかより、全然こっちのほうが行きたいのに」って思っていたり。そのぶん、映画館へ連れてってもらうときはすごく嬉しかった。
あと多分、生まれてから最初の記憶が、映画『学校の怪談』を観にいった記憶なんです。
ーー人生最初の記憶が『学校の怪談』?
サッカーボールがひとりでに飛び、それを主人公の女の子が追って行くと古い木造校舎に閉じ込められちゃう…これが序盤のシーンなんですけど、ボールが跳ねてるシーンまでは覚えてて。そこで寝ちゃったみたいで、起きたらエンドロールが流れてた。そのあと母親と姉二人に「ずっと寝てたね」みたいなこと言われたのが、人生で一番古い記憶なんです。
映画を通して、自分の脳みそを拡張していきたい
ーー好きな映画のジャンルを一つに絞るとしたら?
やっぱりSFですかね。中高までは、いわゆるハリウッドの超大作ばっかり観てましけど。スターウォーズ好きだし、大学からはSF映画をいろいろ観てみようと、『E.T.』とか『未知との遭遇』とか『AI』をまず観始めました。当時はTSUTAYAで映画5本を1000円で借りれた時期だったので、DVDでもたくさん映画を観て。5本中の2〜3本がSF映画で、あとは名作と言われる映画を借りて、貸出期間の一週間でどうにか観切りましたね。
ーーそのペースで映画観てたから、1200本に到達したんですね。
正直、5本観れない時も全然ありましたよ。映画『冷たい熱帯魚』を借りて、期限内に観れなくて返却するのを4回繰り返したこともあって。5回目でやっと観れたんですけど、店員さんは『冷たい熱帯魚』を高頻度で借りてる履歴を見てたかもしれない。
ーーめちゃめちゃ怖い客だと思われていたかもしれませんね…。当時、印象的だった映画は?
大学一年生のときにクリストファー・ノーラン監督の映画『インセプション』が公開されたんです。ホテルの廊下がグルンとなって、ジョセフ・ゴードン=レヴィットが壁や天井を走ってくシーンで「ダメだ、面白すぎる…」と全身に鳥肌が立ちました。映画観てて鳥肌立ったのは、あれが初めてだったかも。
あと、タランティーノ作品も初めて観て。大学一年生の時に映画『パルプ・フィクション』のDVDを買ったんです。ブックオフでもよくDVDを探してたんですけど、“タランティーノ”って名前もよく聞くし、ユマ・サーマンのパッケージもかっこいいので。
観てみると「な、なんだこの映画!」と。いろんなことが起きてるけど、あらすじは分からない。時系列もシャッフルされているけれど、伏線回収があったり、「こうだったのか!」と物語が繋がる瞬間が来るわけでもない。言ってしまえば、映画全体にあんまり意味がないんだけど、なぜか面白いっていうのにびっくりしたんです。それまで、分かりにくい面白さに触れたことがなかったので。そこからタランティーノ作品を全部観ました。劇場で初めて観れたのは『ジャンゴ 繋がれざる者』かな。
ーー土岡さんの考えるタンランティーノ監督の魅力って、なんでしょう。
なんでしょうね。めっちゃメタ的な映画というか、作り手の意図丸出しなんですよ。
例えば初期の映画『デスプルーフ』なんかは、ほんとにグダグダ喋ってる。グダグダ喋って、急にカーアクションがあって、もう一回グダグダ喋って…車のシーンだけかいつまめば多分20分しかない。でも、90分の映画尺を成立させるためだけにグダグダ喋ってる。
バーベキューに例えるなら、色んな肉持ってきて、メロンも持ってきて、グミも持ってきて…具材がぐっちゃぐちゃなんだけど、「映画が好きなんだ俺は!!」という串で無理やり突き通して「これで一本です!」って言ってる感じというか。そういうとこが好きですね。
ーー普段、観る映画をどんな基準で決めてますか?
基本的には、怖いもの見たさですかね。 SFも、ホラーとは違う怖さがあるじゃないですか。
自分の脳みそをどれくらい拡張できるかが、人生での目標だよなと思っていて。この世の知識を全部知り尽くせなくても、向こうにも世界広がってるぞ、と視野を広げたい。なので日常じゃ全然ないようなものだったり、ファンタジーな世界を観たいです。あと、感想を書くこともすごく楽しいので。そういう意味では人間の奥を描く映画は考えるのが楽しいから、好んで観るようになった気はしますね。
E.T.の存在を通して感じる、作り手の子どものような感覚
ーー読者へおすすめの映画を教えてください。
悩んだんですけど…『E.T.』。初めて観たとき、ボロボロ泣いちゃって。宇宙人と男の子の出会いを描いたフィクションだけど、でもこれ全部本当のことだって思って。
ーー???
たとえば小さい頃、神社で遊んでて「この鳥居をくぐったら別の世界」みたいな想像で遊ぶじゃないですか。あるいは、この線から落ちたらサメに食べられる、とか。
ーーたしかに、私も覚えがあります。
当時はそれを”設定”として演じてたというより、本気でやってたと思うんです。本気で鳥居の向こうは異世界だと思ってたし、サメも見えないけれどいた。
だから『E.T.』を観たとき、目の前に宇宙人はいなかったかもしれないけど、かなりの数の人がE.T.の存在を信じていたと思うんですよ。実際に、宇宙人と渡り合っていた。その様子を形にしてるのがすごくかっこいいし、スピルバーグや製作側の大勢の大人が、そういう感覚を忘れずに作っているのに感動して。なおかつ、たくさんの大人が関わって制作してるってことは、世間の大人もそういうこと忘れてないんだって思えて、それも嬉しいんです。
ーー好きなシーンはありますか?
作中、E.T.が具合悪くなっちゃった時に、急に研究者らしき人物が治療してくれるシーンがあって。主人公のエリオットへも「大丈夫だから」と元気付けてくれる。この人、重要キャラっぽくカメラでは抜かれてるんですけど、そのあと出てくるわけでもなく。
なんでしょうね…別に何の説明もないけど、当たり前のように大人側にも理解者がいるのが感じられるシーンで。時間としては短いくだりなんですけど、そこで泣いちゃいました。
何か起きたら、同じ人間には戻れない
ーーネタ作りに映画を参考にすることはありますか?
『映画は父を殺すためにある:通過儀礼という見方』(島田裕己/筑摩書房)という映画の解説本に、映画が終わるとき、主人公は絶対に最初とは変わってしまうものだ、みたいなことが書いてあって。ネタもそうある方がいいのかなと。
たとえちょっとのことでも、何かを経験したら変わるのが映画。だからコントを作るときも「この人、この経験しちゃったら今まで通りにはきっと戻れない」みたいな感じがあった方がいいだろうなと思ってます。
以前、僕らのドキュメンタリーを撮ってくれた友人がいて。ライブには出てるけど、まだ事務所に所属できてない状態から撮影が始まったんですけど、結局半年間の撮影中に事務所に入れることもなく…状態が変わってないから、めちゃめちゃ編集で苦労してて。ディレクターが「ぐんぴぃ、病気になる気配ないかな」って体調不良待ちしてましたね。
ーーどうにか変化が欲しかったんですね…。
あと、なんだろ。またタランティーノ監督になるんですけど、映画『レザボア・ドックス』で登場人物たちが銀行強盗するぞっていう話し合いを最初してて、オープニングの音楽挟んだら「強盗失敗したぞ」と話している。初めて観たとき、それに結構びっくりして。見せ場じゃなくても、強盗シーンは入れなきゃいけないんじゃないか?と凝り固まった考えをしていたけど「あ、別にいらないんだ」と。
ネタで事故に遭った人が登場するとしても、事故シーンはいらない。あらすじとして必要でも、見せたいわけじゃないならどんどん削っちゃおうとか。そうやってネタを編集する視点も、映画から学んでいる気がします。
プロフィール:土岡哲朗(つちおか・てつろう)
お笑いコンビ「春とヒコーキ」のネタ作り担当。2017年4月結成。タイタン所属。青山学院大学文学部日本文学科卒業。大学卒業後は就職せず、3年間ニートを経験。映画が大好き。
X(旧twitter) https://x.com/tsuchioka_t
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