音楽好き、そして山好きを気持ちよくさせ、人気急上昇中の要注目の5ピースバンド・スーパー登山部の「2nd EP Release Traverse(ツアー)」が7月4日、下北沢ADRIFTで行なわれた。スーパー登山部は山登りを愛する小田智之(Key)を中心にHina(Vo)、いしはまゆう(G)、梶祥太郎(B)、深谷雄一(Dr)の5人で2023年に結成し、名古屋を拠点に活動している。音楽と登山を活動の基点として、その高い音楽性でライヴ動員を増やしている。

この日は東京初ワンマン。噂を聴きつけたファンが駆けつけ会場はドキドキ感とワクワクが充満していた。オープニングナンバーは「hatoba」。しっとりと音が広がり、Hinaの伸びやかなで柔らかな声が重なる。途中からリズムが変わり7拍子のいい意味で変態的なリズムを事もなげに寸分の狂いもなく演奏するバンドと、Hinaの声が交差し、どこかノスタルジックな空気を薫らせる上質なポップスとして聴かせる。そのドラマティックな展開にこの一曲だけでこのバンドの“凄さ”が伝わってくる。希望を連れてきてくれるようなピアノの音色が流れ「風を辿る」だ。どこまでもさわやかなメロディと歌声が、聴き手の心に晴れた空と風に木々を映し出す。

「みなさん登山してますか?」、小田のお決まりの言葉が客席に投げかけられると、手を挙げる人が多い。そして小田のボーカルから始まったのは「意志拾い」。小田の柔らかな声とHinaの透明感溢れる声が重なり、心地いい空気が生まれる。この曲も7拍子で、緻密なリズム構成だがそれが深みになって伝わってくる。小田が客席と拍手のコール&レスポンスを楽しむ。小田が複雑なリズムを要求し、客席も応えてハンドクラップという“楽器”がこの曲を一緒に奏でる。

山に身を置くことは、自然と向き合うこと。山は自分がありのままでいられる場所と仲間を得られる場所であり、自分が自分らしくいられる場所——「意志拾い」を始め、そんなことを楽曲を通じてこのバンドは優しく伝えてくれていると感じる。「みなさん登山してますか?」という小田の言葉もそんな意味を内包している——そう感じさせてくれる。

2024年8月には楽器を歩荷して北アルプスを登り、日本最大級の山小屋白馬山荘(2,832m)でライヴを行なった。そのライヴ映像をYouTubeで観ることができるが、地上で絶対に観ることができない雄大かつ幻想的な風景を背景に、まさに楽曲たちが溶け込んでいるような感覚になる。

「秋の海藻」は小田がメインボーカルを取り、心地いいリズムに客席はたゆたうように体を揺らす。小田のピアノの粒立った音が彩りを与える「睡蓮の街」はいしはまの激しいギターソロが炸裂し、Hinaのボーカルも凛とした強さを感じさせてくれる。梶のベースと深谷のドラムの強靭なリズム隊のこのバンドにおける存在の大きさも、改めて感じさせてくれる。

6月20日にリリースした「2nd EP」は、デジタル時代にフィジカルにこだわりBookスタイルというこのバンドらしさを感じさせてくれる。いしはまが全アートワークを手掛け、よりスーパー登山部というバンドを知ってもらいたい、メンバーのキャラクターをもっと知って欲し、そしてその音楽をもっと深く感じて欲しいという思いが、ブックから伝わってくる。

新曲「燕」はシンセバスドラムの拍動が印象的なポップスで、「樹海」は音源ではTENDREをフィーチャリングしている。Hinaの声が心にスッとそして深く入ってきて、彼女の声の浸透圧の高さを改めて感じさせてくれる。いつまでもこのリズムとメロディ、そして歌に包まれていたいと思わせてくれる。続いて披露した「火花」もそうだ。どこまで美しくて儚いメロディと歌。歌詞をひと言ひと言丁寧に感情を纏わせて歌うHinaの歌が、聴く人全ての心を潤す。

Hinaが初めて歌詞を手掛けた「木枯らし」を披露する前に、Hinaがこの曲が生まれた過程を説明する。「好きな人と別れ、その時全てを失った気持ちなり、音楽も聴けなくなり、ステージに立つ自分に自信が持てなくなった。でもライヴで少しずつ増えていくお客さんを見ると少しずつ自信が取り戻せた」と、その時の思いを素直に真っ直ぐな言葉で涙ながらに語ると、客席の女性ファンも涙を流している人が多かった。涙で言葉が詰まるHinaをすぐにいしはまがフォローする。バンドとしての空気感がどこまでも優しい。

「木枯らし」は、木枯らしに舞う落ち葉に自分を重ねたという切なくて、でも前に進もうという気持ちを感じる明るい曲だ。寄り添うピアノ、そしてエクスペリメントなゾーンにも耳を奪われた。さらに激しいギターソロは心の奥深くに潜む“激情”を掬いあげているようだ。

そして本編最後は、代表曲のひとつでハッピーオーラ―が輝く「頂き」だ。小田が「木枯らし」からの流れに「情緒がおかしくなる(笑)」と語っていたが、山の天気は変わりやすいものだ。山を登った時の感情を素直にスケッチしたような歌詞と親近感溢れるメロディ。素晴らしいバンドアンサンブルに心を掴まれる。全員でコーラスを重ね、メンバー全員で登山している絵が浮かんでくるようだ。

アンコールは「山を下りたら行きたくなる」(小田)という「スーパー銭湯もある」。いしはまのソロ曲「銭湯がある」を、スーパー登山部の感性で再構築したという作品だ。Hinaの伸びやかな歌声が会場の隅々にまで広がる。どこか郷愁感を感じさせてくれるメロディと、レゲエ、ダブと表情を変えてくるサウンドが重なる、“らしさ”全開の曲だ。

ジャンルを自在に横断、融合するその音楽性は、圧倒的なポピュラリティを湛え、間口が広く、でも音にこだわる音楽コアファンも納得させる高い演奏能力を持ち合わせ、テクニックと情熱、そして優しさを、聴いた人全員が共有できるのが魅力だ。

6月からスタートした「2nd EP Release Traverse(ツアー)」はこの後7月11日大阪・梅田BananaHall、そしてファイナルは8月20~24日に昨年も開催した長野・白馬山荘で行なわれる。「下界でも山頂でもお待ちしております」——縦走するバンド・スーパー登山部の快進撃から目が離せない。

記事:田中久勝
カメラマン:Maho Tomono

2nd EP Release Traverse
2025年7月11日(金)大阪 梅田 BananaHall
OPEN18:30/START19:00
チケット:https://eplus.jp/sf/word/0000162509