エンタメをこよなく愛す編集者鈴木梢が、現在進行形で夢中になっている色々について執筆するコラム連載。記念すべき第一回は『桃太郎電鉄』について。発端は、友達からのある質問で…

「『桃鉄』の新作を買う理由って何?」

ある日、友達にそう聞かれたのだが、愚問である。『桃鉄』はシリーズタイトルが変われば大きく進化しているし、新しければ新しいほど楽しいからだ。

確かに『桃太郎電鉄』、通称『桃鉄』は、誰でも何度でも楽しみやすい優れたゲーム。プレイヤーが全国を巡り、物件を買い集め、他のプレイヤーや貧乏神に妨害をされながら、最終的な総資産額で優勝を競う。その点は基本的に変わらない。だからこそタイトルが変わっても改めてルールを調べることなく、誰もが楽しみやすい。

しかし、最初にも言ったように、タイトルが変わればまったくの別物。基本的なゲームシステムは同じだが、特殊スキルを発動できるカード類や、貧乏神の変身パターン、マップのマスの配置や種類など、タイトルによって大きく異なる要素が本当に多い。

そもそも「なぜ新作を買うのか」と友達から聞かれたのは、私が最近、最新作の『桃太郎電鉄ワールド 〜地球は希望でまわってる!〜』を購入し、夫と2人で毎日プレイしているという話をしたことがきっかけだ。

設定年数はもちろん100年。『桃鉄』はもちろん短い時間でも楽しめるが、長く遊ぶとより楽しい。100年ぶっ通しでやらなくても途中でセーブができるので、プレイヤーを固定できるのであればぜひ100年ぶっ通しでプレイしてみてほしい。

で、「なぜ新作を買うのか」という話である。その理由を説明するために、『桃鉄ワールド』の要素を用いながら説明していきたい。

今回の『桃鉄ワールド』でいえば、そもそもマップが「全国」ではない。「世界」なのだ。ついに『桃鉄』は日本を飛び出して(過去にも一部飛び出したことはあったが)、マップが世界規模になった。

だから、『桃鉄ワールド』の日本マップ(物件駅)は札幌、東京、京都、大阪、福岡、那覇しかない。あとは全部、世界を駆け巡る。その時点でめちゃくちゃ新しい。やるしかない。

そもそも友達が持っている『桃鉄』はどうやらプレイステーション版らしく、となると『桃太郎電鉄7』か『桃太郎電鉄V』。じゃあもう、今の『桃鉄』とはまったくと言っていいほど違うものだ。

まずキャラクターデザインが違う。いろいろあって現在のキャラクターデザインはかつての『桃鉄』特有のタッチではなくなったので、新作を買わない友達に今のパッケージを見せると驚かれる。ずいぶんポップでキュートなイラストになったものだ。最初は慣れないかもしれないが、やっているうちに違和感はなくなってくる(私はそうだった)。

あとは、とにかく細かな要素がどんどん増えている。カードの種類や貧乏神はもちろん進化しているのと、物件駅を独占すると味方になる「歴史ヒーロー」や、特定の駅周辺でランダムに出現する「お祭り精霊」など、プレイヤーを助けたり邪魔したりするキャラクターが登場する(「歴史ヒーロー」はニンテンドーDS版で初出、「お祭り精霊」に近い要素は過去に「怪獣」などが過去に登場した)。

前作の『桃太郎電鉄 〜昭和 平成 令和も定番!〜』から登場したデストロイ号(キングボンビーの変身形)なんて本当に最悪だ。基本的に貧乏神は該当プレイヤーにのみ被害が及ぶものだが、デストロイ号がついたプレイヤーのその周辺の物件が派手に破壊されるので、いくら貧乏神がつかないように頑張ってプレイしても意味がない。

今作から登場している「世界旅行ボンビー」「ばらまきボンビー」も厄介。「世界旅行ボンビー」は勝手にプレイヤーを他の物件マスに移動させ、しかもその移動にかかった費用を奪う。「ばらまきボンビー」はその名の通り、物件やカード、現金を勝手にばらまいてしまう。現金に関しては、持っていなくても勝手に借金までしてばらまいてしまう。

「歴史ヒーロー」は歴史に名を残す偉人たちが助っ人として現れるが、助っ人としての立ち回りは本人の認識次第なので、他のプレイヤーから何かを奪ってきてしまうなど、「プレイ的には有利になるがプレイヤー同士が険悪になる」手助けをしてしまう偉人もいる。これが絶妙に厄介なのである。「お祭り精霊」はランダムにプレイヤーに祝福や災いをもたらす(クイズの正誤で変わる「クエスニャン」以外)。

私はなぜかスリの銀次(所持金の1/4〜全額を盗む妨害キャラ)の被害に遭いやすいのだが、フィレンツェを独占したおかげでナイチンゲールが味方につき、たまにパトカード(持っているとスリの銀次が何も盗まず逃げていくカード)をくれるので本当に助かった。

つまり、『桃鉄』は新しいタイトルになればなるほど、プレイスキルに依存しない「プレイヤーを振り回す」多種多様な要素が追加されているのだ。だからこそ新作を買う意味がある。上手い人が常にぶっちぎり1位をキープしていたら、パーティゲームは面白くない。

ゲーム慣れしていようがしていまいが、何人で何年やろうが、何千億円も持っているぶっちぎり1位でも簡単に陥落するし、みんなが翻弄されて(時に険悪な空気になりつつ)、ゲームが盛り上がるのだ。だからこそよりスリルを味わうために、誰とプレイしても平等に楽しむために、私は『桃鉄』の新作を買う。

『桃鉄』の特徴として、「プレイ時間が長い」ことも挙げられる。もちろんプレイ時間を短く設定したり、「3年決戦」で短く盛り上がって決着をつけたりすることもできるが、やはり『桃鉄』の醍醐味は「長くプレイする」ことだと思う。

なぜなら、単純に「大金を使えるようになるから」というのもあるが、「長くプレイしなければ発動しない要素が多い」というのもある。

たとえば、50年以上プレイして初めて登場するカードや、特定の年数で発生するイベントなどがある。それによって物件の買い占めが効率的にできるようになったり、億どころか兆の金を自由に使えるようになったり、それが一瞬にして消え去ったりする。長くプレイすればするほど、スリルや絶望を味わうことができる(私としてはこれが楽しい)。

冒頭に書いたように私と夫とCPUの3人で100年をプレイしたが、それでも停まっていなかったマスや、登場しなかったカードがあった。これはまた100年やらねばならないぞ、という気持ちである。

「友達と集まったときにわいわい楽しむもの」として『桃鉄』をプレイしたいのであれば、もちろん数年や「3年決戦」で充分だと思う。もちろん『桃鉄』は1人+CPU複数とかでもプレイできるので、もし収集要素を楽しみたいのであれば、やりようはある。

ただ、『桃鉄』の魅力を最大限味わいたいのであれば、50年以上はプレイしたほうが良い(要素が追加されるタイミングなどはシリーズにもよるため、一概には言えないが)。

つらつらと『桃鉄』の要素の話をしてきてしまったが、とにかく『桃鉄』の新作を買うことには間違いなく意味がある。買ったほうが楽しい。基本ルールが同じおかげで誰もが楽しみやすいからこそ、新作ではどんな番狂わせを起こしてくれるのかが楽しみだからだ。

「最近『桃鉄』やってないな」「昔買ったのをずっとプレイしてる」という人は、ぜひ『桃鉄』の新作をプレイしてみてほしい。番狂わせがありすぎて変な空気になるかもしれないけど、あくまでゲームということで、険悪になるのは、ほどほどに。

著者プロフィール:鈴木 梢(すずき・こずえ)
1989年、千葉県市川市生まれ。出版社や編集プロダクション勤務を経て、現在はフリーランスで活動。主に日本のエンタメ/カルチャー領域の企画・執筆・編集を行う。

イラスト:佐久間茜
編集:ヤマグチナナコ